問いかける


「アンタ、やっぱ石田に似てるな」

そう元親に告げられたのは、西軍が逗留している城にたどり着いてからだった。

「……初めて言われましたけど」
「そうなのか?」

そいつぁ意外だな、元親はからからと笑う。
あまり元気の良い笑い方ではなかった。らしからぬ笑い方だった。

「俺と同盟組んでから、関ヶ原の戦が終わるまでの石田に、そっくりだ」

わたしは元親の言葉に、どうにもうまく返答することができなかった。
ひぃんと脳内で呟き、ちょっとだけ顔を青くさせる。
やだもしかしてこの人察してる?お察しいただけてる?そういう回りくどい感じの言い方が一番怖いんだけど。

とりあえず「そ、そうですか」とだけ返しておいて、わたしは元親から視線を外した。
目は口ほどにものを言う。見られない方が吉である。

そういえば、と思い出してみれば。
いつぞやかにすれ違った佐助にも、何でもないことのように「あ、あんた凶王さんの中にいた子でしょ?元に戻ったんだ、よかったねー」なんて話しかけられたことがあった。
やっぱり分かる人には分かるんだろうか。ううむ、戦国武将、恐ろしい。


――…


それから数日経って、左近、そして続くように大谷さんが目を覚ました。
目を覚ますまでの間にあらかたの治療は終えていて、あとはゆっくり療養すれば数ヶ月で元気百倍になれるらしい。ほっと一息つく。

家康に問われ、西軍にへと持ち帰った件の話は、三成だけでなく西軍の名のある武将たちには全て伝えられた。それは目を覚ましたばかりの大谷さんや左近にも、だ。

わたしが家康にそう返したのと同じように、それは降伏せよという意味ではないのか、という言葉も少なくはなかった。
休戦をするとしてその期間はいつまでなのか。半永久的に、だとしてもその間、日ノ本はどうなるのか。
わたしにはあまり理解の出来ない小難しい話題が城内を飛び交う。

おおかたの武将達が出歩けるようになった頃、石田軍、武田軍、毛利軍、長曾我部軍、小早川軍、他数名の武将たちが集まり、軍議が開かれた。
議案はもちろん、件の休戦云々についてである。
わたしはああでもないこうでもないと話を続ける彼らを、部屋の隅でぼんやり眺めていた。
何でわたし呼ばれたんだろう、と思わないでもないけれど、まあ家康にその話を聞かされたのはわたしなのだし、仕方ないのかもしれない。

率先して口を開いているのは、幸村や元親、他の武将達で。
金吾はあたふたと状況が理解できてんだかできてないんだか、冷や汗を流してただ話を聞いているだけだ。
そして三成も、だんまりを決め込んだままだった。

「……、」

意外だ、と思う。

家康から提案された休戦なんて、三成ははねのけると思っていた。
怒りや憎しみを露わにして、そんなもの受け入れられるはずがない!とか叫んで。
わたしの知る限り、三成の家康への憎しみや憤りは相当なものだし、だから、そうなるだろうと思っていた。
けれど存外三成は落ち着いていて、静かに一点を見つめながら黙り込んでいる。
それは何かを考え込んでいるようにも、ただ、何も見聞きしていないようにも見えた。

割と長い時間を入れ替わって過ごしていたとはいえ、三成の心境なんてわたしに分かるはずもない。
これで「お腹すいたなあ」とか考えてたら面白いのになあ、とかくだらないことを考えながら、わたしは手元の湯飲みに口を付けた。お茶あっつ。

「……蜜奈、蜜奈!」
「うぇっハイ!?」

げほ、と小さく咽せて、湯飲みから声の主へと視線を上げる。
目なんて向けなくても、この場にわたしを蜜奈と呼ぶ人間なんて、一人しかいないのだけど。

「……貴様は、どうするべきだと思う」
「……ほわっと……」

思わずひらがな発音な英語が出た。脳内では疑問符がレッツダンシングイェアしている。
だいぶ混乱しているらしい自分にこっそり苦笑してから、改めて声の主……三成を見つめた。
三成は、ただ真剣そうな眼差しで、わたしを射抜いている。

「そ…れは、家康さんからの提案に対して、ですか」
「ああ。貴様はどう思うのか、どうするべきだと考えているのか。私が貴様に問うているのだ」

ずっとだんまりだった三成が、唐突にどう見ても部外者度ナンバーワンであるわたしに問いかけたことで、場は異様なほどに静まりかえっていた。
みんながみんな、では無いけれどたくさんの視線がわたしに集まっていて、居心地が悪い。
三成が急かすようにわたしを見つめる。
どう答えたものか。この問いかけに、西軍の未来がかかってるなんてことはないだろうけれど、なんとも言えない予感があった。

少し悩んで、湯飲みをお盆の上に戻す。
抱えていた膝を倒し、姿勢を正して、わたしは。

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