招待客


数日後、わたしは東軍の拠点?療養所?となっている城へと招待され、もったいなくも護衛に元親をつけてもらいその場へと辿り着いていた。
元親には再三、家康へと怒りも碇も向けないよう注意をし、頭をじっくり冷やしてもらった。
ここで元親と家康の誤解もとけたらいいのだけど、だとしたらじゃあ誰が四国襲撃を?って話になる。そうしたらどうにもややこしい。ううんとIQなんぼかわからない頭をフル回転させても、良い答えは出てきそうになかった。

「蜜奈殿!……元親!?元親じゃあないか!」

家康は存外元気そうにわたし達を迎えてくれた。
特に元親と会えたことは家康にとってとても嬉しいことのようで、表情を綻ばせている。この時の家康は本当に犬みたいでかわいい。
反面元親はとても複雑そうで、ああ、と投げやりに家康から顔を背け、部屋の入口近くにどっかと座り込んだ。家康が疑問符を浮かべながらしょんぼりしている。

「……それで家康さん、何でわたしをこの場に?」
「、あの時のように家康と呼んでも良いのだぞ?蜜奈殿。……喋り方は、今のままで大丈夫だが」

その言葉に苦笑し、さすがにわたしの立場であなたを呼び捨てには出来ませんよと告げ、話の続きを促した。
家康は不服そうだったけれど、大人しく話を続けてくれる。

「ワシは蜜奈殿を、今まで西軍を率いてきた人間として見よう。そして、問おう。……この戦を、一時ではなく……休戦としないか」

がたんと立ち上がりかけた元親を制し、家康を見つめる。
至極真面目な顔で、家康はわたしを見つめ返してきた。

「……それは、その言葉は、まるでわたし達に降伏せよと言っているようにも捉えられますが?」
「そうではない!そうではないんだ、が……。東軍以上に、西軍の療養には時間がかかると聞く。刑部もまだ目を覚まさないのだろう?そのような状態で、これ以上戦を続け、傷付く者をワシはこれ以上、増やしたくないだけなんだ」
「……あなたは優しい人ですね、家康さん」

わたしの言葉に、ゆるく家康が視線を上げる。
その瞳には何がうつってんだか。もちろんそんなの、わたしに理解できるものではなくて、だから呆れ気味に肩をすくめてみせた。

「ゆえに卑怯で、残酷だ」

家康はその言葉を聞いて、小さく微笑んだ。
弱々しい、子供のような笑みだった。

「この際だから言いますけど、あなたは人を傷付けたくないと言うのなら、まずは秀吉様を殺めるべきではなかった。話し合って彼の人があなたを認めるなんて未来はいまいちわたしには想像できませんが、それでもしっかりと話し合い、その上で、周囲に認めさせた後に秀吉様とぶつかりあうべきだったんですよ。わたしの主観ですけど!」
「……蜜奈殿、」
「わたしは家康さんの事も、秀吉様の事も、三成の事だって、何一つ本当にはわかってないんです。だからこんなの、わたしのただの押しつけです。……でもあなたは、やっぱり、三成から秀吉を奪うべきではなかった。あなたのその些細なミスが、今、傷付く者を増やしているんですよ」

そんなの全部、家康はわかってんだろうけど。
家康が全部悪いわけじゃ、ないんだけど。
どうしてもわたしは三成に思考が寄ってしまうし、わたしの主観をベースに話してしまう。
気が付いたらぼたぼたと涙がこぼれだしていて、それを必死に拭った。家康はそんなわたしに小さな布を差し出して、曖昧に笑う。

「本当に優しい人というのは、蜜奈殿のような人のことを言うのだろうな」
「……、」

口を噤み、家康に渡された布で涙を拭って、前を向く。

「先程の話は、わたしの分を越えています。持ち帰り、三成さんだけでなく西軍の人すべてに聞いてみます。家康さんの望むような答えを出せるとは思えませんが、それでいいですか」
「おい、アンタ……」
「ごめんなさい長曾我部様。失礼かとは思いますが、今はわたしに従ってください」

罰ならあとでいくらでも、と申し訳なさそうに眉尻を下げ、元親から家康へ視線を戻す。

家康は少しだけ困ったように笑っていて、けれどわたしの言葉に頷いてくれた。
本当は、わたしに決めさせてしまいたかったんだろう。なんだかんだと狡猾な男だ、この人は。
……それでも家康が、矛盾をたくさん抱えた、優しい男だということも知っている。
だからこそ難しいんだけど、と。これで終わりらしい話に、失礼かとも思いつつ家康より先に腰を上げた。
それに続くように元親も立ち上がり、一足先に部屋を出て行く。……ちょっと、護衛の仕事してくださいよ。今わたしが家康に殺されたらどうすんだ。ありえないと思うけど!

「……家康さん」
「、どうした?蜜奈殿」
「本当はわたしも、こんな戦さっさと終わらせるべきだと思ってるんです。こんなの、ただ三成が駄々をこねているだけだもの。それに周りが乗っかって、上手いこと……いや別に上手くはないか?まあなんとなくの形でここまで進んじゃっただけなんです。わたしは、この国を統べるのならあなたが最適だろうと思うし、その補佐にまわるのも真田より伊達のが良いだろうと思う」
「なのに、何故……」

その「何故」は、何で西軍についてんのかってこと?それとも、じゃあ何でこの戦を終わらせようと動かないのかってこと?
……どっちにしろ、答えなんかひとつしかない。

「わたしは三成を勝たせたいと思った、それだけです。……例え三成が、家康さんを殺めた後に、孤独を抱えると知っていても」

最後の呟きに対する返答は、無かった。

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