ばかやろう


武田軍の損害は石田軍ほどひどくはなく、幸村、佐助共にほぼ元気だそうだ。
もちろん石田軍の人間であるわたしが彼らに会うことは無かったけれど、それが聞けただけ充分である。
そして元親の元へ向かおうとすれば、どうやら彼は毛利と共にいるらしいと耳にしたので、わたしは毛利の部屋へと向かっていた。
わたしの身体に三成が入っている頃、彼らとわたしは会った事があるけれど、今のわたしで彼らに会うのは初めてだ。ごめんちょっとややこしいな。
何とも言えない、妙な緊張感の中、彼らがいると聞いていた部屋の前に膝をつく。

「お忙しいところ申し訳ありません。石田三成の妹、蜜奈と申します。少々お時間よろしいでしょうか」
「……入れ」

静かに返ってきた言葉に、ゆっくりと襖を開ける。
中には聞いていた通り元親の姿もあって、ぺこりと頭を下げ、室内に入ってから後ろ手に襖を閉めた。

「アンタ、石田の妹だったのか」
「はい。以前はお姿をお見かけしたにも関わらず、挨拶も出来なくて申し訳ありませんでした」
「いーんだよンなこたァ。石田の様子は?どうだ?」
「ありがとうございます。兄も、まだ起きあがれはしないようですが、回復に向かっているとのことです」

そりゃあ良かった、と元親が笑ったところで、毛利がわたしへ視線を向ける。
「何の用ぞ」と問われ、わたしは元親に向けていた笑みを消し、少しばかり真剣な表情を浮かべた。
シリアス顔を浮かべるのは、三成の身体にいる間にずいぶんと慣れたものだ。

「今後、日ノ本を別つ戦がどう進展していくのか。それをお聞きしたくてこの場に参りました」
「……何故貴様にそのような事を話さねばならぬ?石田が聞きたいと言うのならば石田が来れば良かろう」
「だからその石田は今立てねーんだってさっき言ってただろうがよ」

助け船を出してくれた元親に、やっぱりアニキ肌だよなあこの人、と思いながらゆるく頭を捻る。
確かに、わたしなんて端から見れば部外者中の部外者だ。毛利の発言も頷ける。っていうか、当然だろう。
でも、わたしにだって知る権利はあるはずだ。少しの間とはいえ、わたしだって西軍のトップに立ってたんだから。
三成が本調子じゃない今、まだ、彼の荷物を背負っていたって、いいはずなんだ。

「ええと、毛利様、失礼を承知で言わせていただきますね」

にっこり、笑う。毛利と元親が同時に怪訝そうな顔をして、私を見た。
それにちょっとの緊張を覚えつつ、すぅっと息を吸い込む。
そして。

「毛利野球しようぜー!おまえボールな!」
「……は?」
「あ、そっか。また間違えた。この時代に野球もボールも分かる人いねえっての。えーと、毛利蹴鞠しようぜ、鞠おまえな!」

ひひっ、と引き笑いのオマケつき。

畳の上で笑い転げている元親とわたしの言葉に、毛利は完全にブッチギレた表情をしたけれど、すぐにはたと気が付いて、訝しげな視線をわたしに寄越してきた。
わたしはにっこりとまた笑んで、すこし首を傾ける。

「……貴様、もしや、」
「分かっていただけたのなら何よりです、毛利様」

じいとわたしを睨み付けてくる毛利に、未だ転げ回っている元親。
……元親ちょっと黙ろう、うるさいぞ。毛利もおこだよ?

「まあよいわ。一度しか話さぬ、しかと聞け」
「はい、ありがとうございます」

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