だあれ?


わたしも、家康も、松永も、この場にいる人間は誰一人として無傷ではなかった。
ああだこうだと三者三様、各々いろいろ言いながら戦い、血を浴びて、爆破され、斬られ、殴られ。ちょっとした修羅場である。

さすがのわたしもこんな状況でネタをぶっ込む余裕は無く、相当な火傷を負っているだろう左足を引き摺りながら、松永相手に数回コンボをたたき込んでいた。
家康がタメている間にわたしが松永を引き留め、斬滅や号哭、抜刀斬りを駆使して家康の元に松永を飛ばす。そうして、家康が松永に攻撃する。
意外とコンビネーション抜群じゃーんと思う間もなく、松永も反撃を繰り返し、わたしと家康が何度火柱や爆発にに巻き込まれたかはもう分からなかった。

片方の中身が紛い物とはいえ、東西軍のトップが二人揃ってんのに、こうも楽にはいかないものなのか。
難易度婆娑羅の松永だって何度も倒してんのに、やっぱりゲームと現実じゃ違う。
わかりきっていた事だけど、わたしは、わかっていなかった。

「……ッ家康!」

塵晦。松永が、家康の首を捉える。
うまく力の入らない左足を叱咤し、駆ける。もう何も考える暇なんてない、とバサラ技を発動させ松永に向かったものの、それはあっさりと弾かれ、わたしは松永の片足によって地面に縫いとめられた。
身動きがとれない。もう、その足をふりほどくほどの体力もない。

やっばいこの状況見たことあるわ〜と冷や汗を浮かべるような心の余裕もなくて、思わず、「こ、の……、!」なんて声が滲み出た。うっすらと感じるデジャヴ。

「卿に預けた犠牲は、美しき唄を紡いだ。誰からの理解も求めず、理想のままに邁進できるその心……実に見事なものだ。……そう、卿からは、孤高を貰おう」

じとりと体中に嫌な汗が滲む。
だめだ、だめだ、それはダメ。こんな形で関ヶ原が終わるなんて、絶対ダメだ。
こんな形で三成と家康が別れるなんて、絶対に、だめなんだ。

だけどどうすることも出来なくて、泣きそうになる。でも涙なんてにじみもしない。
遠目に見える私の身体はまだ、眠ったように倒れたままで、生きているのか不安になるくらいだった。
ずきずきと、頭が痛む。頭の中を、たくさんの虫に啄まれているような。そんな痛み。……想像すると気持ち悪すぎてちょっと吐きそう。

「聞こえるか?凶王。次なる宝を育てるのは、卿だ」
「……、っ」
「東照は犠牲を胸に、これ程までに飛躍した。濁り無き卿からはどんな音色が生じるか……。それを知るため、卿にはあるものを預けようと思う」

まるで歌かなにかを奏でるように、どこか機嫌良く、松永は言葉を紡ぐ。
確かそれに続くのは、絆の損失、でしたかね?
「っは、」とどうにかこうにか腹から絞り出した笑い声に、初めて、松永の視線がわたしへと落ちた。
頭痛は、ひかない。

「んなもん、いらねえよちくしょう」

そう言って、ニィっと笑う。松永だけでなく、家康まで変な顔をして、わたしを見下ろした。

「わたしがやらなきゃ誰がやるってんだ……何のためにこんな成り代わりトリップしたってんだ……期待に応えてやろうじゃんか」

ぐぐぐ、と腕に力を込める。
何を言ってんのか、何をするのか、わかっていない松永は警戒心をにじませ、わたしを踏みつける足の力を増した。ごきりと嫌な音がする、痛みが走る。だけど無視。

「く、っそ……起きろ三成!!」

ッゴン!!
乾いた空気に、鈍い音が響く。一瞬世界が静まって、わたしは、ゆっくり目を開けた。

体中が痛い。けどまあ、それはさっきより全然マシだから別にいい。
遠くに三成と家康、松永の三人が見えて、わたしはにぃぃとさっきよりも深く、濃く、笑みを浮かべた。
離れた場所に転がっていた刀を拾い上げる。構える。

「だいたい、ボンバーマンなら、ヘイヘイ平和のファイヤー!くらい言えってんだこのボマーめ!」

三人に駆け寄り、鞘におさめたままの刀を振り上げる。
突然のわたしの行動に度肝を抜かれたらしい松永の肘にそれはクリティカルヒットして、松永は痛そうにうめき声をあげながら数歩よろめき、家康を手放した。
どさりと地面に、家康が倒れる。
倒れたままでなにがどうなったのかまったくわかっていない三成と、目を白黒させながら気管を通った空気に咽せている家康。その間に、わたしは立つ。

「残念ながら松永さん、乱入者はあなたじゃなくて、わたしだったようですよ?」

そうしてわたしは、刀を自分の肩に担ぐようにして当てながら、満面のドヤ顔を浮かべた。

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