乱入者は 予想以上に強く叩いてしまったらしく、三成は踞って半分魂を抜けさせている。 わ、わたしの身体大丈夫だろうか……と不安になりはしたものの、これ幸い、とわたしは家康に対峙した。家康も構える。 「まあ武器だの防具だのはどうでもいい。わたしは、秀吉様の天下を汚した貴様を斬滅する為だけに、この場にいるのだからな」 「……三成」 「いくぞ家康」 まずは抜刀斬り。家康を打ち上げたとこで刹那を発動し空中特殊で地面に叩き付ける。 その後は一歩後退してガード。からの回避で鬱屈刹那、断罪刹那で通常攻撃二段、そして空中特殊で再び地面に叩き付けたのちに刹那、最後に斬滅でフィニッシュ! ……最後とフィニッシュって意味一緒だな? 斬滅の時にも刹那を発動させたものの、わたしは数歩後退してだいぶダメージを負った家康を見つめる。 家康は何が起きたのかわからない顔をして、血反吐をはきながら身体を起こした。 わたしを見上げてくる視線が疑念に満ちあふれていて、意識せず口角が上がる。 「……ワシは、なにか思い違いを……?いや、しかしそんなことが有り得る、はずが……」 「どうした家康?なにか言いたい事でもあるのか?」 「……、」 その頃には意識を取り戻していた三成も、やや唖然とこっちを見つめていた。 それを横目に視認し、家康を見下げる。 言いたいことがあるならば言ってみろと、ゆるく笑ったわたしに、家康はゆっくりと瞬きをした。 「お前は……本当に、三成、なのか……?」 「――…っ」 家康の言葉に反応したのはわたしではなく、三成だった。 金と緑が混ざり合った目を大きく見開いて、唇が震えている。その両目からはぽろぽろと涙がこぼれだして、なに泣いてんだか、とちょっと苦笑した。 あれで見た目がわたしじゃなかったら、かわいいもんなんだが。 「……」 わたしはただ無言で、家康に笑みを向けた。 あの三成が笑ったのだから、先の言葉の返答としてそれは受け取ってもらえるだろう。家康がただでさえ大きい目をまあるく見開いて、俯く。 次の、瞬間だった。 パリンッ、と何か大きな鏡が割れるような音がして、家康から目を逸らす。目を、こらす。 いつの間にか大谷さんがはっていたんだろう結界が壊れていて、その向こうに、崩れ落ちる大谷さんと忠勝の姿が見えた。 あれほどまでに騒がしかった戦場が、一転、異様に静まりかえっている。 「なに……、」 小さく、漏らす。吐息が漏れる。 瞬間、火薬の臭いが鼻をついて、はっと気付いたときには身体が勝手に動いていた。 わたしの立っていた場所、三成がへたり込んでいた場所、に、大きな穴が空いている。爆発音は鼓膜を激しく振動させて、頭が痛かった。 「――三成!!?」 三成がいない。家康の前だということも忘れて、名前を叫ぶ。捜す。忙しなく視線を動かして、見つけた先で、三成は力なく地面に倒れていた。 直撃は避けたらしいけれど、相当のダメージは負ったらしい。わたしの身体なのに直撃を避けれただけ、すごいもんだ。 三成から視線をはずして、ゆっくり、ゆっくり、わたし達の場所へと昇ってくる男を、見下ろした。 家康が息をのみ、じゃり、と砂のこすれる音が耳に届く。 「やあ東照。卿の唄を貰いにきたよ」 「松永、久秀……っ」 家康とわたしの言葉が被り、頭の隅で少しだけ笑う。本当に、少しだけ。 なるほど乱入者はこの人だったわけだ。まったくもって酷い話である。 松永を相手取るのはゲーム内でもあまり好きじゃなかった。弾き返しづらいし、動き方は特殊だし。自分が使うのはいいんだけど。 それが今、目の前にいる。火薬の臭いをまき散らしながら、目前に。 ちらと視線を送れば三成は倒れたままで、いっそ、その方がいいのかもしれないと思った。 こう言っちゃなんだが今、松永の目的は家康だ。あんな端っこで倒れているわたしの身体なんて視界に入ってすらいないだろう。三成ですら、ほとんど入っていないようなものなんだから。 でも。と、考える。 ここで松永を倒さなければ、家康は死に、三成は更なる孤独を抱えることとなる。 眼下の大谷さんは無事なのか、それを確認する術はないけれど、少なくとも今すぐここに来られるような状態ではないだろう。 わたしは三成を傷付けたいわけでも、独りにさせたいわけでもない。 それに、家康を死なせたい、わけでもない。 「……家康。今、貴様にとってわたしは理解の出来ない存在だろう。わたしは、三成であって三成でない。背を預けるなど以ての外な存在だろう」 「……、」 「だが、それをふまえた上で敢えて言う。家康、あの男を退けるためわたしに手を貸せ。わたしに、貴様の背を預けろ」 三成、と家康が名前を呼んだ声は、妙に震えていた。 そういえば家康ってさっきから三成の名前呼んでるだけじゃね?とうっすら考えつつ、家康の隣に並ぶ。 どうなんだ。刹那の内に答えろ。 敢えて三成ぶったままで問いかければ、家康がわたしに視線を寄越して、笑った。 なんだか喋りづらそうだな。そう言われて、わたしも笑う。 「……わかった。今はお前にワシの背を預けよう。一時休戦だ」 「上等!」 目前の松永があやしく笑う。 さあて、この聖戦に乱入してきた愚か者を、退治するといたしましょう。 |