終了のお知らせ


とうとうこのときがやって来てしまった。
……とうとう、この時がやってきてしまった……!
大事なことだから二回言いました。神様素っ頓狂な奴だったわ。

もう何人?何万人?いるんだかもわからん軍勢がわたしの背後にいる。プレッシャーがやばい。
わたしの隣には三成。背後に大谷さんと左近。以下は省略。
もちろん戦場のあちこちや、別の戦場には毛利軍や長曾我部軍、真田軍等もいる。東の伊達軍やらもだ。
ちなみに鶴姫は相も変わらず西軍方だ。ありがたいやら複雑やら。
「金と緑が混ざる瞳の娘に鍵有り」と戦の結果についての予見をしてくれた鶴姫には、もう何も言えない。それ完全にわたしの身体じゃん。もうやだ帰ろう。

結局わたしと三成が元の身体に戻ることもなく、ここまで来てしまった。
眼下に見える戦場では、既に戦が始まっている。
西軍VS東軍だ。喧噪がやばい。

「……行くぞ」
「、……――ああ」

三成もといわたしの身体は、その身長や見た目にそぐわない禍々しい刀を手にして、戦場へと走り出した。
その目が憎悪に燃えていて、ひぃんと泣きそうになる。わたしコワイ。
けれどそんな三成を一人で戦場に放り出すわけにも行かず、わたしも全体にある程度の指示を出してから、三成を追うように走り出した。

そうして、すぐに気が付く。
ここは関ヶ原は関ヶ原でも、乱入ステージだ。
状況から見て最終戦は、集結か残影だろうと思っていたのに。ああでも集結だったら鶴姫がいないから駄目だったのか?

でも、何で乱入?

雑魚兵を切り刻みながら、思考する。
誰かが乱入してくる可能性は、まあ、無くはない。官兵衛、最上、松永。ぱっと思いつくだけでも三人はいる。でもまあとりあえず二番目はねーな。
最悪なのは松永だよなあ、と考えたところで、いつの間にかはぐれてしまった三成より先に、家康のいる頂上へとたどり着いてしまった。

……何ではぐれたの。一本道だぞここ。
三成さんどこ行ってしもうたん……。

「……三、成……」

ずさぁ、と立ち止まったわたしを、複雑そうな眼差しで家康が見つめてくる。
ええもうどうしよう、わたしはどうすればいいの。帰りたい。

「家康……」
「……、」
「……久しぶりだな」
「エッ」

とりあえず挨拶をしておいたんだけど、これは確実に悪手だったなと家康の表情を見て悟りました。三成マジごめん。
でもさ……挨拶は、大切ジャン……?

「貴様をこの手で誅戮出来る日を、今か今かと待っていた」
「三成……っ」

と、とにかく軌道修正しよう、そうしよう。
そう思って家康をガン睨みしつつ、振り絞るような声を出す。シリアス声久しぶりに出すからちょっとばかし喉が痛い。
家康はぽかんと呆けさせていた表情を引き締め、わたしに向かって構えをとった。

「武力は、人の絆を断ち切るものだ。ワシはそれを望まない」

お、おう。突然登場ムービー始めたな。ゲームに忠実で良いと思いますよわたしは。
なんかちょっと違うけど、一人語りをはじめた家康を遮るのも悪いし、黙って眺めておく。

「世を統べるのは絆の力!某、徳川家康!武器を捨てて、お前に挑もう!」

黙って、眺めておく。

「かかってこないのか?三成。それならワシから……」

一歩進みかけた家康を制するように、わたしは徐に口を開いた。

「何を言っている?私は待っているのだ」
「……?」
「武器を捨てるのだろう?早く捨てろ。刹那だけ待ってやる。その手についてる物は何だ?家康。手甲は確かに武器ではなく防具だが、貴様の手甲……その形状となれば間違いなく武器の類になるだろう。まずなにより光属性おもっきしついてるじゃねーかそれ、ゴホン!……だから早く捨てろ。ほら、早く」

家康の表情が再び呆ける。ものっそいアホ面になってますよ権現さん、しっかり!

わたしの言ったことは多分理解しているんだろうけど、三成の顔でまさかそんなとこをつかれるとは思っても居なかったのか、家康はわたしと己の両手とを交互に見始めた。
「え、え?いやこれは、」なんて声が聞こえてくる。
いやあ混乱してますねえ。面白い。

「なんならわたしも武器を捨ててやろう」

カラーン、と地面に刀を放り投げる。
家康は一瞬両目を見開いて、今度はわたしと、刀とを交互に見つめた。

「どうだ、これでわたしは丸腰だ。貴様のつけているような防具も無い。貴様は絆などという夢物語を掲げ、その防具という名の武器でわたしを傷付け、殺め、矛盾を抱えたまま天下を統べるのか?なあ、家康?」

最後には満面の笑み(ゲス顔)で締めた。
かまえていた腕をおろし、家康が、なんともいえない表情で私を見つめてくる。
混乱と、困惑と、ちょっとの疑念が混ざった顔。

「……三成、お前、変わったな……?」
「きっ、っさ、っまァァア!!!」

ほんのり涙目な家康の言葉と同時に、背後から激おこスティックなんちゃらなソプラノボイスが聞こえてきて、わたしはヒィッと全身を強ばらせた。
そのままドガンッとどぎつい衝撃が後頭部を襲って、わたしは前につんのめる。ていうかそのまま転けた。

「イッテェ何すんの!!?」
「それは私の台詞だ!刑部から耳にしてはいたが、貴様は、貴様は……ッ!」

もう怒りすぎて言葉も出ないのか、やっと来た三成がもう一度わたしに向かって鞘にしまわれたままの刀を振り下ろしてくる。
ぅおあっぶね!と命からがらそれから避けて、さっきポイ捨てた自分の刀を拾い、立ち上がった。
何が起きたのかわからないらしい家康がポカーンと、そんな現状を眺めている。

「お、おい、三成……?」
「イエヤスゥウ!!貴様も貴様だ!!何故アレを私と間違える!!!」
「は!?」
「無茶をおっしゃる」

もうこれだめだな。わたしのせいだけど完全に関ヶ原終了のお知らせ。
全国の東西軍のみなさんすみませんでした。心の中でだけ謝って、わたしは、とりあえずわんわんきゃんきゃん五月蠅い三成の頭を、一発はたいておいた。

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