戻らない


さて場面は変わり、今わたしは大谷さんと左近、三成の四人で城内にある鍛錬場的な場所にいる。

ちなみにあの後の空気はどうにかこうにかごまかして逃げた。
だって説明とかめんどいんだもの。三成、変なとこでクソ真面目だし。

鍛錬場に来た理由はひとつ。
わたしと三成を元に戻すため、である。発案者は左近。
さあまずは頭ぶつけてみよっかー!と星でも飛ばしてきそうな笑顔でそんな感じのことを言ってのけたのは、大谷さんだった。こいついつかシメる。

「では、いくぞ」
「ハイ……」

自分の顔と至近距離で見つめ合うというのはなかなか精神的につらい。
なるべく強く打った方がいいんだろうとは思うけど、あんまりにも強く頭突きしたらわたしの身体死にそうだしなあ。それは困る。
ていうか三成は頭打ってからわたしと入れ替わったけど、わたしは別に頭打ったわけじゃないんだよね。ただ寝てただけなんだよね。そこんとこどう思いますみなさん?

と、現実逃避をしている内に三成が頭をわずかに引いたので、わたしも衝撃に構えることにする。
わたしの身体よ、強く生きてください。
そう思いながら目を瞑れば、ゴッ、という鈍い音と共に額にどえらい衝撃がやってきた。

「いっ、たぁー!?」
「っぐ……、」

そのままごろんと後ろに倒れる。
ひいんおでこ痛いちょう痛いめっさ痛い!やだもう三成の石頭!ちがったわたしの石頭!わたしの身体こんなに石頭だったっけ!?自分と頭突きしたことないから知らんけど!

ごろんごろんと木製の床の上を転げ回るわたし(三成の身体)、そして額を押さえて踞り半分魂抜けかかってる三成(わたしの身体)を見て、大谷さんと左近が溜息をついている。
オイ、おい大谷さん、「やはり駄目であったか」って聞こえたぞ。駄目だと思ってたのにやらせたのかよちくしょう。
左近は三成に駆け寄り、大丈夫っすか!?と背中を支えて額に濡らした布を当ててやっている。
割とわたし的にも悪くない絵面ではあるのだけど、すみません、わたしの心配もしてやってください。つらい。

「っあー……いった……。頭打つのは無意味でしたね、んじゃ次どうします?」
「そうよなァ……次はわれが術でもかけてみるか」
「なにそれコワイ」

ひぃ、と喉から変な声を出して、左近と三成の後ろに隠れる。
三成はそんなわたしをギロリとすげえ眼差しで睨んできたけども、知らん。お前はまず目尻に浮かんだ涙を拭け。

「大谷さんそんなことも出来たの……」
「多少はな。でなければこれの説明もできまい」
「ハッ……ですよねー!」

ほれ、と大谷さんが指さすのは彼の周りをふよふよと回っている珠。
そういえば乱入でも結界はったりしてたし、魔法だか忍術だか陰陽だか知らんが、大谷さんはそういう類のものが使えるんだろう。こわ、近寄らんとこ。

そんなわけで、全力で逃げにかかったわたしを捕まえたのは三成であった。
わたしと違って百パー大谷さんを信頼している三成は、大谷さんに変な術をかけられることに拒否感はないらしい。強いなこいつ。

「くそ、刑部、変なことしたら斬滅するからな!」
「貴様ァ!刑部を斬滅するなど私が許さん!そのようなことをしてみろ、私が貴様を斬滅してやる!!」
「その身体でわたしを斬滅出来るとでも?返り討ちにしてくれるわ!」
「はいはい三成様も蜜奈ちゃんも落ち着いてくださいねー」

ああん?と胸ぐら掴みあってたわたしと三成を左近が宥めて、結局わたし達は大谷さんの前に正座をすることになった。
親の敵でも見るような視線でわたしを睨んでくる三成と、冷や汗ダラッダラの状態で半笑いのような顔をしているわたし。ううん、傍から見るとシュールだろうな。

「では、ゆくぞ」
「ああ」
「ウィッス……」

なんちゃらかんちゃらと呪文みたいなものを唱えて、大谷さんが手を動かす。
それに従うようにいくつかの珠がわたしと三成の周りをぐるぐるしだして、これこのまま死んでも違和感無さそうだなとぼんやり思った。
三成の身体なのだから、そんなことはしないだろうけど。

暫くそのままぼうっとしていたけれども特に変化は無く。
どうやら終わったらしい刑部は微妙な顔で、「ど、どうっすか!?」と少しテンションの高い左近に、わたしと三成は無言で首を左右に振った。
わかりやすく萎える左近に、ちょっとだけ笑う。

「えーもー、ホントに三成様と蜜奈ちゃん、どうやったら元に戻るんすかね」
「まだその時期ではない、という考え方も出来るなァ」
「時期、だと?」

顔を上げた三成に、うむ、と大谷さんが神妙な顔で頷く。
ところで割と自信満々な感じで術かけたのにまったく意味無かった件に関しては大谷さんどんな気持ち?ねえどんな気持ち?

「蜜奈」
「痛っすみません、心読まないでください」

スパアンと頭叩かれた。三成がおっかなびっくりわたしと大谷さんを見ている。
うん、まあ、そりゃ君は大谷さんに叩かれたことなんて無いだろうよ……こちとらもうだいぶ日常だよ……。完全に自業自得だけど。

「ぬしらの精神が入れ替わったことに、もし、意味があるのならば。然るべき時がくれば戻るのではないか?それまでは何をしても無駄であろ」
「でも刑部さん、然るべき時もなにも、関ヶ原まであとちょっとしか無いんすよ?」
「うむ……」

ヤレ困った、コマッタ。大谷さんはそう呟いて、深い溜息をついた。
これはもう本当に、どうしようもないよなあとわたしが三成に目をやったとこで、三成がすっくと立ち上がる。
そういえば、三成が中に入ってからのわたしの身体、姿勢良くなったよなー。

「今出来ないことをどうこう言うのは無駄だ。私はこの身体でも戦えるよう鍛錬をする。蜜奈、付き合え」
「エッ、おう……ハイ」
「あ、俺も付き合いますよ三成様!」

まあでも、その内にはちゃんと元に戻るんだろう。
この世界に神様がいるのかどうかなんて知らないけど、いるのならその神様も私と家康を対峙させるほど、素っ頓狂な奴じゃないはずだ。多分。

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