交わる


わたしの身体に入っている三成については、“生き別れていた三成の妹”として石田軍の人々に説明された。
瞳の色も同じだし、あまり言葉を発さないよう大谷さんが言い聞かせてるとはいえ喋れば三成そのものなのだし、って事で石田軍の皆さんは割と納得されている。
それでいいのか石田軍。髪色とか全然違うぞ。わたしと三成どこも似てないぞ。

「さて三成さん」
「何だ」

そして今、わたしは三成と共に彼の自室にいる。
三成と出会って(というかわたしの身体と再会してというか)、二日。わたしは三成にひとつ言わなきゃいけないことがあった。

「外で、というか大谷さんと左近以外の人がいるとこで、わたしのことを蜜奈と呼ぶのはやめていただきたい」
「何故だ。貴様は蜜奈だろう」
「いやそうなんですけどね?確かにわたしは紛うことなく蜜奈ですけどね?」
「ならば問題はないだろう」

それが残念ながら問題あるんだなー!三成さんちょーっとわかんなかったかなー!?

「あー……ご覧の通り、今のわたしの身体は三成さんの物なんですが、それはわかりますよね?」
「貴様は私を馬鹿にしているのか?己の身体が目の前にあるのだ、それくらいは理解している」
「なーんでそれがわかってて名前呼んじゃダメなのがわかんないのかなー!?」

思わず顔を覆ってシャウト。
三成は声を荒げて「私の姿でそのような言動をするな!」とかなんとか言ってるけど、ごめんねー!?こんな言動しちゃうの多分三成さんの所為だなー!
何なんだろう、この世界の三成はなんというか……アホの子なんだろうか……。
いや割と本家本元の三成もアホの子だったな…じゃあそういうことか……。

「事情を知らない人がわたしを見たら、わたしが三成さんだと思いますし、同様に今の三成さんを見れば三成の妹という設定の蜜奈だと思います。その状況でわたしを蜜奈、あなたを三成と呼べばおかしいことくらいわかりますよね」
「……だが三成は私だ」
「それは重々理解しています。三成さんが嘘を嫌う人だということも知っています。でもこれはただの嘘じゃなくて、必要な嘘なんです」

溜息混じりに伝えれば、三成は苦虫を噛み潰したような顔をする。
ああ、わたしの顔にどえらい眉間の皺が……。あれ元に戻ったときなおるだろうか…。

「あなたが本当の三成さんであることは、わたしも、大谷さんと左近も理解しています。大谷さんと左近が分かってくれれば充分でしょう?それとも三成さんは、石田軍……いえ、豊臣軍である兵士の皆さんに、余計な混乱を招きたいのですか?」
「そんなわけがない!秀吉様の兵を乱すことなど、許される事ではない!」
「ですよね。それならどうか、嘘を吐けとは言いませんから、せめて口を閉ざしていてください。人のいる場所ではわたしの名前を呼ばないように」
「……わかった」

ふ、と顰めていた表情を緩める。
どうやら微笑んでいたらしいわたしの表情を見て、三成は少なからず動揺のようなものをして、目を逸らした。
自分が笑っている顔なんて、まあ確かに見慣れてないだろうし。

とりあえず話は一段落したので、わたしは残っていた政務にとりかかる。
三成が帰ってきてからは政務も分担出来るようになったのでとても楽だ。とても楽だ。大事なことなので二回言いました。
自分の負担が減るのって素晴らしい、と思う辺り、やっぱりわたしは一国の主なんて向いてない。

「……貴様は、早く元に戻りたいとは思わないのか」
「いやそりゃ戻りたいし帰りたいですよ」
「貴様には家族がいるのか。帰る場所があるのか?」
「まあ、一応」
「ならば、行ってみれば良いだろう。刑部と左近が分かったのだ、貴様の家族も、貴様が蜜奈だとわかるはずだ」

淡々と二人、筆を動かしながらの会話。

わたしは三成の言葉に一瞬、筆を止めて、あーともうーともつかない擬音を漏らしながら曖昧に笑った。
帰れるもんなら、帰りたいけどねえ。

「まあ、会える場所にいないんで」
「……?」
「三成さんにとっての秀吉様みたいなものですよ。まあそんな大層なモンでもありませんけど」

なんとなあく、帰れないだろうなあっていう予感があるわけで。
多分この予感は当たるだろうとも、なんとなくだけど思っていて。

まあ帰りたいってのはコンビニやらテレビやら、そういうのが懐かしいってだけで、あとはまあ友達に会いたいとかそういうのもあるけど、帰れなくてもいいやって気持ちがあるのも事実なんですよね。
しかしわたしの言い方が悪かったのか、三成は至極複雑な表情で押し黙ってしまった。

この空気どうしよう。

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