なかなおり


話を聞き終えたわたしは、もう、真っ青だった。

強姦未遂からの強盗殺人とか、わらえない。ヤられかかって、殺して、まあそれは過剰な気もするけど正当防衛だからいいとしよう。
それより、……こいつ、この数ヶ月間ずっとノーパンノーブラで過ごしたというのか……!生理とかなんなかった?大丈夫だった?絶対なってるよね!?その間どうしてたの!?わたし、気になります!!

ってツッコミたい。ツッコミたいけど、そういう空気じゃない。

真っ青な顔で黙り込むわたしをちら見してから、大谷さんが三成に今度はこっちで起きた出来事をかいつまんで話し始めた。
わたしが三成じゃないと気付いたこと、大谷さんと左近にいろいろ教えてもらいながら戦や政務をこなしていったこと、左近はずっと三成を捜し続けていたこと、あと縁談のこともちょろっと。
三成はじっとわたしを睨みながらそれを無言で聞いていて、わたしも引きつった表情で三成を見つめ返していた。

「――というわけで、三成よ、蜜奈はぬしの名も豊臣の名も貶めてはおらぬ。ぬしほどではないが、アレはよくやってくれた」
「刑部、貴様はあれを庇うのか」
「女だてらにぬしの真似事をこなしたのだ、褒めてやってもよかろ」
「、女……?」
「え、わたし言いませんでした?」

三成が大谷さんの言葉に目を丸くするもんだから、思わずびっくりして声を出してしまった。
ていうか名前でわかるだろ。あと状況でなんとなく察しつくだろ!

「今、三成さんが入ってる身体が、わたしの本当の身体です。……大谷さんがさっき言いましたけど、わたしも気が付いたら、こうなっていました」

瞠目する三成に、アッこの人まじでわかってなかったんだ!?って生ぬるい顔になる。
いや、いいんですけどね……。

「ならば、貴様は……なぜ己の身体を捜そうとは、しなかった」
「……だって、この世界にいるとは思ってませんでしたから。まあ警察沙汰になるよかこっち居てくれた方が良かったかもしんないけど……、それに、三成の振りすることに精一杯だったんで」

いやほんと、元の世界に三成inわたしがいたらと思うとぞっとするね。
何でわたしの身体までこの世界に来てんだって感じもするけど、まあなんというか、結果オーライだ。

「そうか……私も、貴様の身体を奪っていたのだな」

神妙な表情で俯く三成に、えっいやそんな気にしなくてもええんやで…!?と少し慌ててしまう。
だけど大谷さんがこれでいいみたいな仕草するから何も言えず、わたし達はただ黙り込む三成を眺めることしか出来なかった。
……ここで三成やわたしを責めるやらなんやらするよりまず、どうやったら元に戻るのかを考えるべきだと思うんすけど……。いやまあ頭をぶつけるくらいしか浮かばないので実行すんのは嫌ですけどね?

「それより、どうしたら三成様と蜜奈……さん?ちゃん?は元に戻るんすかね」
「そうよなァ、頭をぶつけたのが切っ掛けであれば、また頭をぶつければ良いのではないか?」
「勘弁してくださいそれさっき自分でも考えました」
「でもこのままじゃせっかく三成様見つけたのに……」

左近の言い分ももっともだ。せっかく三成とわたしの精神と身体が揃ったのに、これじゃ意味がない。
だからといって確実に戻れる方法がわかるでもなし……。

「……刑部、戦はあとどれだけ続く」
「ん?残るは恐らく、一月後の決戦のみよ」
「そうか……」

何かを考え始めた三成をぼんやり眺め、そうか、もう最終決戦まで一ヶ月しかないのか、と現状に重荷を感じる。
もしこのまま家康と対峙しなくちゃいけなくなったらどうしよう。

「貴様」
「……っああ、え、はい?」
「これから一月、私は貴様と共に過ごす。その間に戻ることが出来れば良いのだが…万一、戻ることなく決戦を迎えた場合、」
「お、おう……」
「私は貴様と、家康の元へ向かう」
「…………エッ」

「私の顔でそのように抜けた表情をするな!」と何故か怒られながら、先の言葉を必死に飲み下そうとする。が、すげえ勢いで喉に引っかかる。ウナギの小骨レベル。

「えー……それはつまり、わたしの身体で家康を倒すと?」
「そうだ」
「(それすっげえ家康が複雑なんじゃないか……)そ、そうですか」

見ず知らずの女の子に討たれる家康とか可哀相すぎやしないだろうか。しかも三成の目の前で。
「えっ三成がワシ倒すんじゃないの!?」ってなりそうだけど。さすがの権現もびっくらこくよそんな展開。
あとその場合ってわたしの身体の死亡フラグやばくない?

とかなんとか思いはするけれど、本物の三成がいる今、わたしにろくな発言権があるわけもなく。
いやこれマジで関ヶ原いろんな意味で終わりそうだなあ、と、遠い目をするしか出来ないわたしでありました。

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