どうしよう


起きたら、目の前に大谷さんのドアップが映った。
叫ばなかった自分を褒めて欲しい。

大谷さん逆トリキター?って思ったと同時に、視界に銀色の何かが映った。
さらりと揺れるそれを寄り目になりながら視認し、軽く手で触れてみる。髪だ。ひっぱったら痛かった。
銀髪を、引っ張ったら、わたしの頭が痛い。
…………うん?

「目を覚ましたか、三成よ」
「……、」

顔を顰め、大谷さんを見つめる。
声も完全にマダオだし、包帯巻いてるし、どっからどう見ても大谷さんだ。これがコスプレだったら感動して握手求めるレベルの完成度。
その人が今、わたしを、なんと呼んだ?

「覚えておるか?ぬしは城門に頭をぶつけ倒れたのよ。だからわれは急くなと言うたのに」
「……すまん」

…なんとなく三成ぶってしまった。どうしよう。

ていうか三成さん何してるんですかー!確実に恐惶使ってたじゃないですかー!誰に向かって殺してやるぞぉおおおしてたんですかー!
これだからネガティブハイテンションは!!

なんて脳内で全力ツッコミをしている最中、三成ぶってしまったわたしに大谷さんは安堵の表情を浮かべ(かわいい)、わたしの額に濡らした布を乗せてくれた。
ひんやりして気持ちいいのだが、完全にオカンである。さすが大谷さん。

ところで今はどこら辺の時間軸なんでしょう。三成ぶってしまった以上自分から聞けないし、やれ困ったコマッタ。割と切実。

「5日後には毛利と同盟を結ぶため安芸に向かうと話していたであろ。気が急くのもわかるが、今はゆるりと休みやれ」
「ああ……」

はい。
そこら辺ですか。てことは秀吉様は死んだ後だなあ。
VS家康目前なのかと思うとなんか三成マジゴメン。多分その内戻ると思うから我慢して。
……ていうか今わたしの体ん中に三成いたらどうしよう。わたしが逮捕されてまう。友人が察してくれることを願うがその前にわたしの部屋が半壊しそうだ……。

まあなんとなくの状況はわかったので半身を上げ、額の布を掌に落とす。
少しぐわんと脳が揺れたが、元々三成の体が頑丈なおかげかさほど苦ではなかった。これがわたしの体だったら布団にリターンしてた。

「とりあえず形部、腹が減った」
「……は?」
「いやだから、何か食べられる物を……(ええと…)持ってこい」

三成口調があんまりわかんなくてどうしよう。大谷さんへの喋り方って命令口調でいいのかな。もうちょいフレンドリーにした方がいいのかな。

それはそうとしてこの空!腹!感!!やばい!
三成どんだけ飯食ってないのちょうお腹すいてんだけど!?
今にも腹の虫がオーケストラ奏でそうだよ!?
肉食べたい肉。ああでもこの時代って肉あんま無いのかな。じゃあもう野菜でも米でも魚でも何でもいいからとりあえず食べれるモン持ってきてくださいお願いします。餓死る。

「三成、ぬしは、本当に三成か」
「……何を言っている形部。わたしがわたし以外の何者かになることなどありゅもの、噛んだ…あるものか。わたしだって人間だ、動けば腹は減る」
「(絶対おかしい)さ、さようか。……ならばすぐに持って来させよ」
「頼んだ」

おもっきし噛んだけど大丈夫かな。
大谷さんすごい(絶対おかしい)って顔してるけど。めっちゃ疑いの眼差しだけど。

とりあえず数分経って女中さんが持ってきてくれたお膳をもぐもぐすることにする。
お礼を言いたいという気持ちと三成のキャラを考えた結果、その女中さんに「ご苦労」って告げたら大谷さんと二人してものっそい顔をしていた。ちょっとかわいかった。
しかし城内の三成の態度よ……。

「三成、どこかおかしなところは無いか」
「別に、……いや、特に無い」
「まことか?」
「わたしが貴様に嘘をついたことがあるのか?」
「いや、無いが……しかし、……ううむ」

どうしよう大谷さんすげえ困ってる。かわいい。どうしようこの人まじかわいい。さすがダークフェアリー。今は頭にちょうちょ無いけど。

さすがに暫く食べていなかっただろう胃にいきなりご飯を突っ込むのは無理ゲーだったのでお膳は半分ほどでギブアップしたが、まあそれなりに美味しかった。めっちゃ味薄かったけど。
ごちそうさまと手を合わせ、その動作をも困惑の眼差しで見つめてくる大谷さんにどうしたものかと腕を組む。
どうしようもねえよなあこれ。もう三成ぶっちゃったしなあ、ぐだぐだだけど。
「噛んだ」とか言っちゃったし。そんな三成見たくないよわたし。

「……膳はわれが下げておくゆえ、ぬしはもう暫く休むがよかろ」
「わかった」
「……」

大谷さん、ごめん、その目はやめて。
なんか切なくなる。



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