複雑だ


「ぬし、その女子は、もしや」
「……ああ、」

三成の部屋へと戻る道中、糸の切れた人形のように動かなくなった彼女は気を失ったんだろう。
気力だけでもっていたような身体だ。自分こんなに軽かったっけかと担ぎ上げた時は驚いた。
きっとロクに食べることも眠ることもせず、どこから来たのかはわからないが一心不乱に大阪城を目指していたんだろう。
その道中に何があったのかは知るよしもないが、体中にこびりついた血の塊や傷だらけの身体を見るに、楽な道ではなかったらしい。
……精神だけでなく、わたしの身体まで人殺しになってしまったのか。なんとも言えない気持ちだ。

「この女が、本物だ」
「やはり、……」

大谷さんは輿を少し高い位置に浮かせ、気を失っている三成をじっと見つめる。大谷さんがどう思ってんのかは知らないけれど、こんな状態の自分の身体をまじまじと見られるのはあまり良い気分ではなかった。

「……とりあえず刑部、わたしはこの女を洗ってくる。貴様は部屋で待っていろ。あと、女中に着替えを用意するよう伝えてくれ」
「あい、わかった」

相も変わらず複雑そうな大谷さんと途中で別れ、わたしは風呂場へと向かう。
毎日入れるわけじゃないけどちゃんとお湯のはれるお風呂があると知った時には感動したものだ。この時代の風呂といえばサウナだからな。あんなん綺麗になった気がしない。ローマ見習って欲しい。

辿り着いた風呂場で、三成が気を失ってるのをいいことにぱっぱとぼろきれのような服を脱がしていく。
中身が三成とはいえ、身体は自分だ。今更恥ずかしがるような事も無い。
わたしも着流しの裾をまくり上げ、温かな湯がはられている風呂場へと全裸の自分を抱えて入った。……ううん、ややこしい。

とりあえず一旦、全身に湯を浴びせ、湯につけた布で痛くないよう身体を拭っていく。
面白いくらいにぼろぼろと落ちていく汚れに、これ日本昔話みたいな事が出来るんじゃなかろうかとうっすら考えてしまった。垢太郎作れそう。
くまなく全身を洗い終えた後は、髪の毛にとりかかる。
腰の辺りまで伸びた黒髪はぼろぼろで、くすんだ黄色の髪紐でひとつに結われていた。
それをそっと解き、湯につけながらゆっくりと洗っていく。
はああシャンプーとトリートメントしてやりたい……っ!と痛みまくりの髪に絶望感を抱きながらの作業は、なかなか精神にきた。
しかし三成、目ぇ覚まさないな。今起きられても困るけど。

ようやく見れる程度には綺麗になった自分の身体を、沈まないよう気をつけながら湯につけ、暫くぼんやりと眺める。
気を失っていても眉間に皺が寄ったままの、わたしの身体。
なによりも驚いたのはあの瞳の色だ。三成である今のわたしと、まったく変わらない色。金と緑が入り混ざった、綺麗な色をしていた。
勿論元のわたしはちょっと色素が薄い程度の黒目だった。それが何をどうして三成と同じ色になったのか。……精神が入れ替わったことの副作用?みたいなもん?

「わからん……」

後で三成には詳しく話を聞かなきゃいけない。
けどその前にわたしが殺されてしまうかもしれない。大谷さんにはうまいこと事を進めてもらわなければ。

血の気の失せていた三成の頬がほんのり赤みを増してきたのを目にし、身体を抱き上げて風呂から出る。
女中さんが用意しておいてくれた布で水気を拭き、浴衣に着替えさせた。寝ている相手を着替えさせるのって大変なんだなとわたしは思いました。

そうして三成を抱き上げ、三成の部屋へと向かう。
三成が目を覚ます気配はまだ無かった。

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