不安だらけ


しん、と静まりかえった空気に、あれこれもしかしてめっちゃシリアス入っちゃった?マジ?どうしようわたしシリアスムード持続させんの壊滅的に下手なんだけど。と心の中で震える。
幸村はじっとわたしを見上げていて、その瞳が何を訴えてんのかは知らないけどただただ真っ直ぐで、ほんとに良い子だなくそー、なんて目を逸らしたくなるのを必死に耐えた。

そのまま何分か何秒か、どれくらいの時間が経ったのかはわからない。
ようやく幸村が立ち上がり、再び二槍を構えた時にはわたしの足はそろそろ疲れ始めていて、早く帰ってゆっくりお風呂に浸かりたいなあと思考をとばしていた。
幸村は少しずつ、わたしに近付いてくる。

「某が何の為戦うのか、それはまだわからぬ。しかし、貴殿と刃を交わし、某の力を認めて貰わなくては、武田の者に示しが付かぬのだ!」
「……いいだろう。こい、真田。その上で貴様が西軍に必要か否か、わたしが見定めてやる」

うおおおおお!!と叫び声を上げながら槍をおおきく振りかぶった幸村に、すげえなあと目を細めてしまう。
毛利さん、大谷さん、元親、幸村、……みんな自分の力でまっすぐに生きている。わたしには想像も付かない重荷を背負ってんのに、それを苦にもせず立っている。
……それは三成となったわたしも同じなのかもしれないけど、わたしが今背負っている荷物は一時渡されただけのものだ。責任はあるけど、彼らほどじゃない。これは三成の荷物であって、わたしの意志で負ったものじゃない。

ただ自堕落に生きて、めんどいからって理由でいろんなものを捨ててきたわたしには、本当にすげえとしか言えない人たちばかりだ。

だからこそわたしは、早くこの身体を三成に返してあげたい。
彼だってきっと、自分の背負っている荷物に責任を感じているはずなんだから。

「うるぁああああ!!」
「っ、……」

ガキンッ、と弾き飛ばされた刀を横目に追い、すぐに幸村へと視線を戻す。
幸村は好機とばかりにわたしの懐へと二本の槍を向け、真っ直ぐに突っ込んできていた。

いやしかし、真っ直ぐな人間ってのはほんとに読みやすいものである。

「っよ、い、しょっ、っと」

半歩退き、身体を横に向けて槍をいなし、標的に当たることなく進んだ身体はバランスを崩す。そのタイミングを狙って幸村の服に手をかけ、わたしは彼を地面に押し倒した。

「真っ直ぐ突っ込むだけが戦いじゃない、ってね」

元よりわたしは刀やらなんやらを使う戦いより、素手同士での戦いの方が性に合ってるのだよ。

地面に押さえつけられた幸村は一瞬唖然とし、それ以上に大谷さんが驚いていた。
三成には柔道やら合気道やらの心得はなかったんだろうか。

「某の負け、にござる」
「うむ!」

満足げな笑みを浮かべ、幸村の上から避ける。

「貴様の覚悟は伝わった。……真田、これからよろしく頼む」
「石田殿……、分かり申した!某、真田源次郎幸村!西軍の一員としてこの槍を振るいまする!」

そうして、西軍のメンバーがやっと、だいたい固まってきた。

毛利、真田、長曾我部、鶴姫、黒田、お市、島津、立花……これだけ揃っているのだから、決戦ももうすぐなんだろう。
なのにわたしが三成に戻る気配はまったく無い。予兆も無い。
このままわたしが家康と対峙したら、関ヶ原完全にいろんな意味で終わりを迎えると思うんだけど。不安要素しか無いんだけど。
不確定にもほどがある未来に、溜息しか出せない。

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