がんばる 休む間もなく、今度はわたし達石田軍が上田城へと出向いての同盟戦である。 佐助ってなんか苦手なんだよな〜幸村はかわいいんだけど。 以前烏城に行ったとき、すれ違った天海に「あなたはどうやら、歪んだ魂をお持ちのようだ……」と笑いながら告げられて思ったのだけど、どうやらボロを出さなくてもわたしが三成じゃないことは、分かる人にはわかるらしい。 多分お市とか、鶴姫もわかるんじゃないかなあとなんとなく思っている。この二人には直接会った事が無いからなんとも言えないけれど。 そしてわたしは、佐助もなんとなく分かる側の人間なんじゃないかと思っている。 風魔やかすがに比べて、アレは、なんというか……侮れない。 そうは思っていても、会わなきゃいけないのがつらいところである。 わたしめっちゃ働いてるよ、働き過ぎだよ。今までニートもいいとこの生活してたのに三成になってからまじでハードワーク。むしろオーバーワーク。 その内に過労で倒れるかもしれない。最近食欲も無いし寝付き悪いし。 と、まあそうこうしている内に佐助のいる陣まで辿り着いてしまった。 目が合ってなんか話しかけてはきたけれどフル無視し、左に曲がって隣の陣を目指す。 「え、ちょ、俺様無視!?」 「貴様などに用は無い。その喧しい分身を消せ」 「消せって言われて消してちゃ分身した意味無いじゃーん」 ゲームのようにはもちろん行かず、隣の陣まで追い掛けてくる三人の佐助を蹴散らしながら陣を占拠する。 そうすれば水に流された佐助の分身はあっという間に消えていて、うぇっぺっぺっ!と口に入ったらしい水を吐き出している佐助ににんまりと笑みを向けた。 「消さぬなら、流せばいい話だがな」 「……水も滴るなんとやら、ってね。分身が消えたからって、俺様が弱くなるわけじゃないぜ?」 「フン、確かに貴様は良い男かもしれないが、ずぶ濡れの姿で言われても恐ろしさの欠片も無いな」 「、……アンタ、なんか変わった?」 うんまあ、思わず口をついて出た言葉だったけど、三成こんなこと言いませんわな。 てへ、と脳内で苦笑をこぼし、佐助に居合い斬りを向ける。 軽く跳んで宙へと避けた佐助の下をひょいっと通り抜けて、んじゃさいなら〜とわたしは幸村の待つ本陣へ駆けはじめた。 佐助は一瞬あっけにとられ、数秒遅れてから追い掛けてくる。 「アンタ俺様無視しすぎじゃない!?だいたい、俺様倒さないとそこの門は開かないよー?」 「門など通る必要も無い」 だいたいあそこ通って幸村に会いに行った事なんか片手で足りるくらいしか無いわ。 斬滅刹那を駆使しながら佐助との距離をどんどんあけ、水の抜けた堀を走りながら本陣へと向かう。 途中、水で滑りこけかけたが、なんとか持ちこたえた事に自分の成長を感じた。 今、ここに、大谷さんがいなかったのが、残念でならない…ッ! 大谷さん、わたしは簡単には転けない人間に成長しましたよ! さてさて、ようやく辿り着いた奇襲ルートの陣もとり、橋をおろす。 突如おりた橋に驚いたらしい幸村がわたしの姿を見つけ、きりっと表情を引き締めた。あらイケメン。 「石田、三成殿……」 「……真田、ひとつ問う。貴様は何故、西軍に入ろうとした」 二本の槍を構えたままの幸村に、刀の柄に手をかけながら問いかける。 大谷さんと佐助が追いついてきたのを横目に、すぐに幸村へと視線を戻した。 「それは、我が師……武田信玄公が、徳川との戦いを望んでいたため、」 「貴様はただ、家康と戦いたいだけだと?」 「……某は未だ未熟の身、お館様の意志を継ぎ、この身を成長させねばと思っているのだ。しかし某の力だけでは足らぬ。故に!貴殿の力を借り、お館様のお教えを胸に、徳川殿へとっ……」 ふんふんとそれを聞きながら、ふと脳裏に浮かんだ曲を小さく口ずさんでみた。 「夢中〜で〜、がーんばる君〜にー……」 「、石田殿?」 「エールボー!!」 どーん!、と緩いくの字に曲げた腕を幸村の首にクリティカルヒットさせれば、ぐえっとえづいて勢いよく幸村が吹っ飛んでいった。 「った、大将!!?」と目の前で起きた事をイマイチ飲み込めてない佐助が、慌てて幸村に駆け寄っていく。 ちなみにわたしは大谷さんに拳でブン殴られた。痛い。 「い、い石田殿、今のは一体……」 「貴様の言い分は理解した。どうやらわたしと貴様が、似たもの同士だと言うこともな」 「いやそれはどうだろう」 「いやそれはどうであろ」 「ちょっとそこの二人黙っててもらえます?」 素に戻っちゃったじゃねーか。なにお前らハモってんだよ。 「真田、貴様は何のためにその槍を振るう。己の為か、主の為か、部下の為か。はたまた野望の為か。……それを己ですら理解していない者に西軍の一端を担わすほど、わたしは力に困ってはいない」 「某は……、……では石田殿、貴殿は何のため、その刀を振るわれるのだ」 その問いかけに、ゆっくりと刀を引き抜いた。 切っ先を真っ直ぐ幸村に向け、そして、そのままゆっくりと上へ、上へ向けていく。 最後には、鋭い刀の先は、天を突き刺していた。 「わたしは、」 だけど、すぐにその刀を振り下ろす。 ダンッ、と鈍い音を立てて地面に突き刺さった刀を、幸村だけでなく佐助や大谷さんまで、唖然と見つめていた。 「わたしは、私の為に、この刀を振るっている」 |