ともだち


わたしが三成の中に入って、いつの間にか一ヶ月も経っていた。
その間にいくつくかの戦を終え、西日本はほぼ西軍の領地となっている。
あとは長曾我部、真田辺りをどうにかしなきゃな〜、みたいな状況になっていた頃、長曾我部・真田両国から同盟の意を示す書が届いた。
「願ってもなき申し入れよ」と大谷さんは愉しそうに笑っていて、そういえばわたしが知らんうちに元親は騙されちゃってたんだよなあと複雑な気持ちになりながらも、わたしが今三成である以上西軍の負けは許されないので。わたしはその同盟を受け入れる事にした。

というわけで今、四国の長曾我部元親殿が、大阪城へ来ている。
前回の毛利軍の時とは違い、今回はわたしが迎える側の戦だ。同盟を組むための物なので本気ではないが、適当でもない。互いの力を見せつける、大切な戦。

本陣でただぼけーっと待っているだけなのもなかなかに暇なのだが、大将は本陣でどんと構えていなければならない。
これ三成の登場ムービーみたくした方がいいのかな、でも毛利さんは別にしてなかったからいいかあ、と考え始めていた頃。階下の門が開かれるのが見えた。
遠目に見える大きな火と、碇のような槍。

「長曾我部、元親……」

階段を駆け上がってくる姿はまさしく鬼そのものだ。鬼気迫る表情に気圧されながら、その表情の奥深くに見える後悔の波に胸が締めつけられる。
……これは、知らないでいた三成の方が、幸せだったかもしれない。

「よォ、石田三成。やっとここまで辿り着いたぜ」
「……遅かったな、長曾我部。どうだった、我が豊臣軍の力は?」
「いやぁ、さすがとしか言い様がねえ。だが、俺達長曾我部軍…、野郎共と俺の力にかかれば、こんなもんよ!」
「いいだろう、ならばその力とやら、この私に見せてみろ!」

鋭く抜いた刀を元親に向ければ、槍で防がれる。
殺さぬように、けれど西軍総大将として負けてはいけない、大切な戦いだ。
幸い、わたしは元親の使う技を全て知っている。この動きはアレ、この動きには隙が大きいからその間に懐に入り込んで、と計算ができる。
戦や戦いの経験は無いけれど、その分わたしには知識がある。

「貴様は何故ッ、西軍につこうとする!貴様は秀吉様の敵だった、そして家康の旧知であるはずだ!ならば貴様は、わたしの敵だッ!!」

三成が言うかもしれなかった言葉を吐きながら、元親を追いつめていく。
数え切れない程の斬撃に防戦一方となってしまった元親は、きつく唇を噛み締めて荒々しく叫んだ。

「家康は俺を裏切った!あいつは、俺がいねえ間に野郎共を、四国を壊しやがったッ!!俺は、変わっちまったあいつが許せねえ!」

ガンッ、と刀をはじき返された衝撃で地面に膝をつく。
っは、はあ、と肩で息をしながら元親を見上げれば、恨みと、怒りと、悲しみが入り交じった複雑な表情で、彼は碇を地面に突き刺した。

アッ秀吉様の城に傷が……。

「だが、俺の力だけじゃあいつには敵わねえ……。頼む、石田。俺に、アンタの協力をさせてくれ」
「……戯れるな。貴様の力など必要ない」
「まあそう言うな三成」

階下から聞こえてきた声に、「刑部、」と小さな声を上げる。
ほんの少しの傷を負った大谷さんがふわりと輿を揺らして、わたしと元親を見下ろしていた。

「西海の鬼、ぬしの力はよおくわかった。これからは義のため三成のため、われらと共に徳川を滅ぼそうぞ」
「……、」

元親はそれに曖昧な返答をし、わたしへと手をさしのべてくる。
未だに膝をついたままだったわたしは思わずその手を取りそうになって、……すぐに引っ込めた。
きょとん、とした目で見下げてくる元親に、鼻を鳴らす。

「一つだけ言う。わたしにつくなら、嘘は吐くな。裏切りは許さない」
「……アンタ、面白ぇ奴だな」
「あと瀬戸内でとれる魚をください」
「えっ」
「三成……」

だ、だって久々の本気三成モードでだいぶ疲れたし!金吾と今度鍋パしようねって約束しちゃったし!瀬戸内海でとれた新鮮な魚を食べたいしい!!
基本わたしがこういう子だって大谷さん知ってんじゃあん!

「くっ、ははは!石田、アンタ、聞いてた話と全然違うじゃあねえか!」
「黙れ!貴様はただわたしの力になればいい!」
「ああ、これからよろしくな」
「……、ああ」

にかっと笑う元親に何も言えなくて、とりあえず大谷さんをちろりと睨んでおいた。

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