お腹すいた


おーここが烏城……と、何日かかけて到着した金吾のいる城に感慨にも似た何かを覚える。
今回はわたしと大谷さん二人と数人の兵だけでのお出かけであり、小早川軍の兵に案内されてわたしは金吾と初対面を迎えたのであった。

初めて目にする生金吾は、わたしと大谷さんを見て、ものすごく怯えている。

「い、み、三成くん、刑部さん……」
「……金吾」
「ひぃッ」

一歩、わたしが歩み寄ればびくりと身体を震わせて縮こまる。
……ちょっと面白い。
もう一歩近寄る。頭を庇う。もう一歩近付く。しゃがみこむ。もう一歩進める。うわああんと鳴き声を上げる。訂正、泣き声。
あ、やだ、なんか金吾かわいい…。なんかそういうおもちゃみたい。

「三成、近すぎではないか」
「ハッ」

ふと気が付けば金吾のどえらい至近距離に立っていた。金吾はわけもわからずわんわん泣き声をあげて震えている。かわいい。
謝るのもなんかアレだったので一歩下がり、へたりこんでいる金吾に目線を合わせるために膝を曲げた。
もう一度「金吾、」と呼びかければ、おずおず、金吾はわたしと視線を合わせる。

「家康から文が届いたそうだな」
「ひぃいっ、ごっごごごごめんなざ」
「どうせ助けてやるとでも嘯いていたのだろう、あいつも所詮、本田か銃兵を用いて脅しにかかる癖にな」

ハンッ、と鼻で笑ってやる。金吾だけでなく大谷さんもわたしの言っていることがいまいち分からなかったのか、きょとんとしていた。
毛利さんには踏まれ、三成には殴られ、家康には脅され、大谷さんには呪われ。まったく金吾はかわいそうな子である。誰か助けてやれよ。天海なに笑いながら見てんだよ。「おや、死んだ」じゃねーよ。
と、いうのがゲームをプレイしていた時のわたしの感想であり、まあわたし本人としても金吾の優柔不断さにはイライラしてしまうのだが、こうして見るとなかなかに可愛い子ではないか。印象変わるわ。
なんというか、ちょいぽちゃでバカな子犬みたい。犬種は……チワワ辺りだろうか。

「まあそれはいい。貴様が西軍に留まろうが東軍へ寝返ろうが、わたしには知った事ではないからな」
「……三成、」
「だが、……金吾」
「ひいっ、はい!?」
「貴様は鍋が好きだったな」

「…………うん?」

たっぷりの間をあけて、金吾がこてん、と首を傾げた。何その仕草。

だから鍋好きだったろ?と三成ぶりながら再度問いかければ、わけがわからなくとも金吾は頷きを返す。
金吾の作る鍋ってすごい、野菜が丸ごと入ったアレだったけど、あんなに美味しそうに食べてたんだからきっと美味しいんだろう。
分類としてはちゃんこ鍋に近いんだろうか。あー、つみれ食べたい。鶏団子とか。鯵もいいなあ。

「た、確かに僕は鍋が大好きだけど……それがどうかしたの?」
「わたしに食べさせてみせろ。まずかったら容赦はしない」
「……え、三成くんが食べるの?」
「それともわたしに食べさせる物など、無いと言うのか?」
「いいいいやいやいや、すぐに用意しますううう!」

心の中でにっこりと笑い、部屋を去っていく金吾をひらひらと手を振って見送る。
わたしの背後に控えていた大谷さんは深い溜息をついて、もうどうにでもなれとなんだか投げやりになっていた。

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