グレイブ エラー [82/118]


卑猥注意


こんな時に思い出してしまうのもどうかと思うのだけど、三成の触り方は、佐助と比べてとてもぞんざいなものだった。
気持ち良くさせようだとかじゃなくて、とりあえず濡れればいいだろう、みたいな。

あたしはそんな自分の状況を、やっぱりまた、ぶよぶよとした膜の向こうから眺めるようにして、見ている。どちらかと言うと、ぶよぶよはしてないかもしれない。薄くてぼやけた、黒い絵の具を溶かした水のような膜。
多分これは、絶望って言うんだろう。そう考えて、胸の内で苦笑した。

あたしの抱くそれは、絶望と言うより、失望にとてもよく似ていた。


――…


声を出さないようにしていると、普通にしているよりもずっと疲れるんだなと頭の隅で考える。
三成はどこか苦しげな表情で、あたしのナカに自身を突き挿れてきた。充分にほぐれていないそこからはじくりとした痛みが走って、眉根を寄せる。濡れてはいるものの、易々とは入りきらないそれに三成が顔を顰めて舌打ちをこぼした。舌打ちをしたいのはこっちだ。
抉るように力を込められれば、余計に痛みが走って思わず身を引きそうになる。快楽の声は耐えられても、痛みの声を耐えるのは難しい。荒い息を、けれど静かに漏らせば、それで僅かに力が抜けたのか全体がナカにおさまった。

「……全て、入った」
「、……」

思わずぽかんとしてしまう。
そしてすぐに、顔に熱が集まってきた。なんて顔で、なんてことを言うんだこの人は。

何で、……何で、そんな満足そうに。

「動くぞ」と告げられた直後、三成が腰を動かし始める。あたしは呆けさせていた口元をすぐに引き結び、既に自由となっていた両腕で己の顔を隠した。今更だけれど。
なんだかんだと言っていても、気持ちいとこを擦られたら電流のようなものが全身を襲うし、好きな人とシているのだから、感じないわけがない。
ナカに挿れているのだから、締めつけの強弱で、きっと三成にも伝わってしまうだろう。それが無性に、嫌だった。

痛いのと、気持ち良いのが一緒くたになって、頭の奥を蕩けさせていく。
それでも声だけは出さまいと必死に口を噤んで、少しだけ泣いた。滲んだ涙はすぐに、顔を覆う袖に吸われて消えた。

「何故、声を出さない」

暫くナカで動いていた三成が、一瞬の沈黙の後に動きを止める。そして紡がれた言葉に、顔を覆っていた腕と腕の隙間から様子を窺えば、ひどく遺憾そうな視線であたしを睨んでいた。
どうとも答えることが出来ず、あたしは沈黙する。

「……悦くないのか」
「え、いや、」

沈黙に対する三成の言葉が予想外すぎて、思わず言葉が漏れた。しまった、と再び口を噤む。
けれど鋭く睨め付けられて、これは喋らなかったら殺られるなと思ったので仕方なく口を開いた。ナカに入っているものの感触が鋭敏で、どうにも声が震える。

「これがもし、紫ちゃんの代わりなんでしたら、……声出さない方が、良いかと思いまして」
「……」

今度は三成が口を噤む。硬直したのがナカの感覚からも伝わってきて、ほらやっぱりと胸の内で嗤った。
三成は身動きひとつせず、あたしを見下ろしている。あたしはその視線を受け止めて、柔く目元だけで笑んだ。

別に、代わりにしたいのならすればいい。
あたしは何をされたとこで三成から離れるつもりはないし、それで三成の気が多少なりとも休まるのなら、本望だ。

……だけど、せめて身体だけでも、なんて。なんて虚しいものだろう。

沈黙が降りた室内で、三成から目を逸らし、小さな溜息を漏らす。
まるでそれを待っていたかのように、ずくんと打ち付けられた。

「っあ、!?」

思いきり油断していたところに衝撃が来たせいで、生理的な声が上がる。それに三成は少しだけ、何故か満足そうにして、ゆるゆると腰を動かしながら言葉を紡いだ。
自分の口元を押さえようとしても、三成の手に阻まれて、ぎゅっと唇を噛めば深く突かれる。敢えて声を出させようとするその行動の、意味が分からなかった。

「確かに貴様とあの女は似ている。……異なる世から来たというのが真実であるのなら、それが理由なのだろう。見目は似ても似つかないが、漂わせている空気は、似通っている」
「……っ、ぁ、」
「だが、貴様があの女の代わりになど、なるものか」

歯を食いしばろうとすれば、口の中に三成の指を突っ込まれた。舌をなぞるようなそれが口内にあれば、あたしは口を閉じることが出来ない。……この人に傷を負わせるなんて、もうできるはずがない。

三成の言葉には、じゃあ何でこんなことをするのかと、返したかった。
けれどそれすらも口内に入れられた指で妨げられて、あたしはただただ喘ぎ声を漏らすことしかできない。
次第に昇りつめていく感覚に、泣きながら身を捩る。この感覚だけは本当に、……本当に嫌いで、三成から逃れようと身体を動かせば、追いかけるようにして余計に深く抉られた。また、高い声が漏れる。この声も嫌いだった。

「っ、…あ、やだ、ー……っ」
「私を、拒絶するな……!」

抱き竦められたことに驚く間もなく、頭の中が真っ白になる。
いつの間にか視界を覆う膜は消えて無くなっていて、その代わり、理解の出来ないモノに対する恐怖のようなものが、あたしの頭を埋め尽くしていた。

けれどそれも、一瞬後に消え去ってしまう。
微かに三成が呻いたかと思えば、ナカに生ぬるい感覚が染みてきたからだった。

「……、は……」

さっきとは違う意味で、頭が真っ白になった。

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