ゆびきりげんまん [80/118]


後日、紫ちゃんを金輪際捜そうとしないとの約束を三成、大谷さん両名に取り付けたあたしは、彼女が今小田原にいる旨を伝えた。
約束をした手前、三成は立ち上がりかけた身体を諫め、畳を睨み付けている。そんな三成を横目に見やってから、大谷さんが「して、二つめの約束とは何だ?」とあたしへ続きを促してきた。

「……北条方は今後、東西軍どちらにも加担せず中立を保ちます。あたしは北条氏政殿に、官兵衛殿と紫ちゃんを匿ってもらう代わりに、西軍から一切手を出させないと約束しました」

勝手にすみません、と小さく続ける。
大谷さんは深く頷いてあたしの言葉を咀嚼し、飲み下している。三成には鋭く睨められてしまい、肩をすくめた。

あたしの行動がどれだけ自分勝手なものだったかくらいはわかる。それでも、それが一番だと思った。だからそうした。これはその結果だ。
あたしは責任を持って、この約束を完遂させるしか無い。

「北条が徳川に加担せぬという保証はあるのか?」
「……ないです」
「そうよなァ」

次第に居たたまれなくなって、室内の自分がものすごく小さくなったかのような感覚を抱く。大谷さんと三成に向けられるの視線から逃れたくて、でも逃げちゃいけなくて。
逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ……と心の中で半分うわあんな気分になりながら顔を伏せた。
二人はああだこうだと、あたしが取り付けてしまった約束について話し合っている。かえりたい。


「……まあ、よかろ。三成もよいな?」
「好きにしろ」

結論が出たらしい。

「北条が東西どちらにも加わらず中立を保つのであれば、われらも手を出さぬ。それで良いな?朱」
「、あ……はい」

まさか本当にオッケーされるとは思わなくて、目をぱちぱちとさせながら頷いた。
あとはこの約束事を西軍全体に伝えるのみだと言われ、その任はあたしが負うこととなる。もう何度目かわからないくらい完全に飛脚扱いだけれど、そんなのどうでもよかった。
よかった。あたしは、約束を守れた。

「ありがとうございます。三成様、大谷さん」

とにかくこれで、一つ、肩の荷が下りた。

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