捻り迷う [6/118] 大谷吉継は朱の去った後の部屋で、空になった湯飲みと小皿を静かに見下ろしていた。 朱は己が差し出した物を、何の躊躇いもなく口にした。いや、まず、それらを差し出した自分のことすらも吉継には分からなかった。 自身の姿を目にしても怯える事なく、真っ直ぐに射抜いてくる朱の視線は、三成のそれとよく似ていた。しかし、いつぞやかに見た毛利の物ともよく似ている。 ひたすらに真っ直ぐ、けれど何者をも信じるつもりは毛頭無い。そんな視線。 嘘は吐かぬが、真実は言わぬ。 朱から感じ取ったのは、そんな気配だった。 だからこそ吉継は、根が良さそうな紫ではなく、朱を選び、この場に連れてきた。 にっこりと人懐こい笑みを浮かべる癖に、言葉がまったく笑んでいない朱を。 「刑部、入るぞ」 「おお、三成か。入りやれ」 静かに襖が開き、石田三成は吉継へと歩み寄る。 しかし先程からそのままにされていた座布団、湯飲み、小皿を目にして、三成は歩みを止めた。訝しげな目線で吉継を射抜き、吉継はそれに笑いで答える。 「子猫を招いておったのよ」 「……どうでもいい」 「ぬしは朱を気にかけぬなァ、それでは女子は拗ねてしまうぞ」 「あれは嘘を吐く人間だ。意味のある嘘も、無い嘘も。見れば分かる。私は、あれを信用しない」 「嘘ならばわれも吐くが?」 「貴様は私に嘘を吐くのか?」 暫しの問答は、吉継の引き笑いで幕を閉じた。 吉継ははっきりとした確信は無いものの、なんとなく、朱が三成を好いているのだろう事を察している。 ――しかしこれでは、朱の旗色は悪いなァ。そこまで考えて、吉継は自嘲気味の笑みを浮かべた。 何故出会って数刻しか経ってない小娘の肩を持つのか。今日のわれはとんと理解出来ぬ。 軽く首を振って、思考を止めた。 「して三成、何用か?」 「あの二人は、戦に使えるのか」 その言葉にふむと数秒考えこむ。 そこらの足軽よりは力も才もあるようだが、基本的な戦い方は知らぬだろう。 戦術も駆け引きも知らない、言葉巧みに敵を翻弄する事も出来ないとくれば、総合的にはまだそこらの足軽のがよほど使える。 が、才があり、また婆娑羅者だとくれば話は別だ。育てれば化けるだろうと思考を終え、吉継は呟いた。 「それは、そうようなァ……使ってみねば、わかるまい」 |