ひとときを震わす [66/118]


朱ちゃんと刑部はそろそろ大阪城に戻ってるだろうなあと思いつつ、辿り着いた烏城で私はのんびり鍋を頂いていた。割と大歓迎してくれた金吾さんまじ一生を賭けて愛でたい。
私と金吾さんが話をしていても、三成は多少苛つきながらも意外と大人しくしていた。安芸で合流してから何かと考え込んでいる風だったのだけど、何を考えてるかは知るつもりも無い。
後はたまに変な行動してくるとこさえ無ければ、三成もそんなに一緒にいて面倒な人ではないかもしれないのだけど。

「おや金吾さん、客人ですか」
「あっ、天海様!」

そっと開かれた襖の向こうから現れた人影に、びくーっ!と箸を落としそうになってしまう。すんでのところで耐えて、おそるおそる、視線を上げた。
あ、やばい、麗しすぎて卒倒しそう。

「石田軍の紫ちゃんだよ!今はいないけど、三成くんも来てるんだ」
「そうですか、凶王軍の……」

目元だけで天海様がふわりと微笑む。あああなん、何だこれ。死のう。目を合わせるのも口をきくのも恐れ多い気がして全身が竦む。けど、挨拶しないのも失礼だしと震える声で「は、はじめまして」と呟いた。
「紫さん、と言いましたか」と名前を呼ばれただけで身体から魂が抜けそうになる。なんだかもうわけがわからない感情のまま、泣きそうになりながらこくこくと頷いた。違うんです官兵衛さん、これは浮気じゃありません!仕方ない現象なんです!生理現象です!

「紫ちゃんはお友達なんだあ」
「おやおや、金吾さんにお友達がいたとは知りませんでした。それもこんな可愛らしい方だとは」
「ありがとうございます!!!」
「紫ちゃん!?」

耐えきれなくなって顔を背け踞る。
おっかなびっくりしている金吾さんと、くすくす嗤う天海様にもう私は爆発寸前だ。誰か助けてください。

「魂といい言動といい、とても愉快な方のようですねえ」

聞こえた言葉にちらと視線を上げれば、天海様は目元を歪ませて私を見下ろしていた。
その視線に殺されるならば本望です。割と本気。

「そうだ、天海様も一緒に鍋食べる?」
「いえ、私はまだ所用があるのでこれで……。金吾さんと紫さんは、どうぞごゆっくり」
「そっかあ、じゃあ仕方ないね」
「お見苦しいとこを失礼しました天海様……」

お気になさらず、と微笑み去っていった天海様を呆然と見送る。ああもういっそ烏城の床になりたい。そんな感情を抱いていたら、もぐもぐと大根を食べていた金吾さんが満面の笑みを私に向けた。

「紫ちゃんって変わった人と縁があるんだねえ。天海様、きっと紫ちゃんのこととっても気に入ったと思うよ」
「ありがとうございます!!!」
「紫ちゃん!?」

そしてまた踞る私であった。

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