契りの争い [57/118]


いつも通り進んだ先で、一番最後の陣を音もなく奪取し背後から孫市に迫る。
ちょうど同じタイミングで紫ちゃんが孫市の正面に現れ、孫市は一瞬あたしに視線を向けた後、二人を同時に相手取れる位置へとジャンプした。華麗な跳び方に思わず見惚れる。

「ほう?思っていたよりは出来るようだな」
「お褒めにあずかり光栄です。雑賀衆頭領、雑賀孫市殿」

別に奇襲をしたかったわけでもないので、紫ちゃんの隣に移動して改めて傘を構える。
こう言うのも悪いけれど、所詮雑魚戦相手なんて大した問題じゃない。
ここで重要なのは孫市相手にあたし達がどこまで戦えるか。そして孫市を西軍につける事が出来るか、どうかだ。

……まあぶっちゃけ、雑賀衆は東軍についてくれた方がやりやすいのだけど。
いやでも敵にすんのは少し面倒かな〜でもな〜……ううん、難しい。
とりあえず今は孫市戦に集中しよう。

銃を構える孫市に、あたしが一歩前に出る。

「じゃあ紫ちゃん、まずはあたしからで」
「ウィッス、後ろから見てまーす」

駆けつけてきた数人の石田軍兵士には、元より孫市戦には手を出さないよう伝えている。
これで心おきなく、力試しが出来るってものだ。

「まずは貴様が相手をするのか?私は二人同時でも構わないぞ」
「死にかけたらそうさせてもらいますわ」
「ふ……カラスめ」

口角を上げた孫市が、数発の銃弾を放つ。それらは全て広げた傘で防ぎ、弾いて、あたしはすぐに影の中へと沈んだ。
孫市の背後に出ると同時に横っ腹に蹴りを入れる。が、素早く身を引いた孫市に与えられたダメージは微々たるもので。追い掛けるように身体を反転させもう一度蹴りを入れようとしたけれど、それはクロスさせた二丁の拳銃によって防がれた。
おっと、と転けそうになりながら体勢を立て直す。その間すぐに孫市はあたしの足を狙い銃弾を放っていて、内一発が左の太ももを掠めた。おおう痛い。

「やっぱ余裕とはいかないよなあ」

小声で呟き、傘で身を隠す。
影送りで相手の背後に出たとしても、気配でモロバレなのだからあまり意味が無いようだ。これは気配断ちのやり方でも覚えるべきかもしれない。……やばい頼れそうなのが佐助しか浮かばねえ。

でもまあ今のままでも、戦略のひとつにはなる。
バカの一つ覚えみたいにまた影の中に沈んで、今度は孫市の正面に出た。そして一瞬に閉じた傘で孫市の姿勢を崩し、畳み掛けるように腹部へ蹴りを入れる。ごきりと鈍い音が聞こえた。ごめんね孫市。
と、心の中で謝罪した矢先に、孫市は僅かな笑みを浮かべ、崩れた姿勢のまま後ろへ跳びながら手榴弾を投げてきた。

わあい、顔面真っ青。

「っチェンジ!」
「早いな!」

どうにか直撃は避けたものの、傘に見事な大穴があいてしまった。おいこれ頑丈なんじゃなかったのかよ。
慌てて影の中に潜り、紫ちゃんの背後に出てどんと背を押す。
苦笑みたいなのを浮かべて、紫ちゃんは仕方なしに孫市の前へと出た。その頃には既に、孫市も体勢を立て直していた。

「ごめん紫ちゃん、ロクにダメージ与えられんかったわ」
「それ多分私もだろうから大丈夫!」
「もうちょい期待させて!」
「……緊張感の無い奴らだ」

呆れたように目を細め、孫市はさっきまで使っていたマグナムから、ショットガンへと銃を持ち替えた。
生で見ていてもどうなってんだかイマイチわからん。どっから出てきたんだあのショットガン。四次元ポケットでも持ってるんだろうか孫市は。

「孫市相手となると、これしか使えないかなあ」

刀で数回孫市と打ち合った紫ちゃんが一旦距離をとり、小さく呟く。
紫ちゃんの能力は粗方聞きはしたけれど、直接戦闘で使うのを見るのは初めてだ。
多分アレの事だろうな、と思いながらあたしは怪我した太ももに包帯を巻き付けておく。

「……、」

すっ、と紫ちゃんの雰囲気が変わる。
薄紫色のもやが一瞬緑に染まり、それを体内に取り込んだんだ。紫ちゃんの変化を孫市も感じたのか、数歩距離をあける。
けれどあたしが瞬きをしている間に紫ちゃんは一気に孫市の正面へと迫っていて、あのおどろおどろしい毒の刀で孫市を斬りつけた。反射的にガードした孫市の銃と、肘下が、刀傷の形にぐずりと溶ける。うええグロい。
孫市の腕に遺った傷跡は、何かの炎症のように見えた。皮膚が爛れ、血が滲む。

孫市はぐっと顔を顰めると、溶けた銃を投げ捨て次の銃を手に取る。
ショットガンは連射速度は遅いけれど、威力が高い。紫ちゃんが二度目に斬りかかろうとした瞬間に孫市は紫ちゃんの腹に向けて一発銃弾を放ち、そしてすぐに後退しながら手榴弾も放った。
だけど紫ちゃんはその全てを避け、再び孫市に刀を向ける。孫市の顔に焦りが浮かんだ。

「っく……!」

紫ちゃんの刀が、どんどん孫市の身体を傷付けていく。服や甲冑は溶け、孫市の肌には爛れたような傷が増える。
これはあたしの出番もう無いかなあと紫ちゃんの猛攻を眺めていれば、不意に紫ちゃんの動きが止まった。何してんだ、と思ったのも束の間、その隙を逃すはずのない孫市は銃をマグナムに変え、紫ちゃんの顔面すれすれに放つ。どうやら頬にかすったらしく、紫ちゃんは「い゙っ!?」と声を上げて、とんとんとバックステップであたしのとこまでさがってきた。

「……何してんすか」
「強心毒きれた!チェンジ!」
「時間制限もうちょい考えて行動しようよ!?」

強心毒。一定時間、紫ちゃんの身体能力を上げる毒だ。使いすぎれば紫ちゃん自身にも害がある為に、紫ちゃんの別の能力が勝手に働いて使えなくなるらしい。
それがきれてしまった以上、確かに紫ちゃんが孫市と戦えるような能力はもう無い。あたしにも言えることだけれど、紫ちゃんの能力は一対多向きだ。

「……っは、……」
「まあ、孫市さんもだいぶ体力削れたみたいだし……、」

うええほっぺ痛い〜なんて唸りながら血を拭っている紫ちゃんに背を向け、傘から抜いた刀を肩に担ぐ。

「いっちょ終わらせますか」
「……我らはそう簡単には、膝をつかない」

にこりと笑う。
膝をつかせるのが、目的じゃないんで。

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