刻はとまらず [53/118]


あたしが帰阪して数日後、真田軍から正式に同盟を組むと決めた文が届いた。
それとほぼ時を同じくして、毛利を筆頭に、数十人の兵が大阪城に辿り着く。
表の盟約を組むために石田軍が安芸を訪ねるはずだったのに、それがなかなか来ないからってわざわざ来てくれたらしかった。存外優しい男である。

同盟前の小規模の戦はやっぱりあって、それにはあたしと紫ちゃんも出陣した。
ただしあたしは毛利の相手をせず、雑魚戦担当である。
紫ちゃんは毛利の相手を少しだけしたらしく、「輪刀マジヤバイ、すごい回ってた。あとあの人いったいどうやってあの輪っかから日光発射してんの?」とほんのり焦げた着物の裾を見せてくれた。

毛利及び毛利軍の兵は二、三日大阪城で過ごし、再び安芸に戻っていった。
大阪城にいる間は大谷さんや三成と軍議をしたり、手合わせをしたり、と忙しそうにしていた毛利も、時間の空いたときにはあたしとお茶を楽しそうに飲んでいた。表情は全然楽しそうではなかったけど。
いやまさかあの毛利に癒しを感じるとは思わなかった。今までのごたごたを考えると、毛利とはなんてかわいらしい人だろうか。ちょっとしたことですぐ照れるし。


その毛利が帰ってから、次に攻めてきた真田軍との同盟も無事に終えた。
同盟戦ではあたしは何故か出陣を許されず、紫ちゃんだけが「え…まじで……?」と言いながら一人ばたばたと出陣していった。
帰ってきた紫ちゃんは、「手裏剣マジヤバイ、超回ってた。てか佐助すっごい朱ちゃん朱ちゃん五月蠅かったんだけど朱ちゃんあの人に何したの」「あと幸村やっばい。めっちゃうるさい。あの槍どういう原理で炎出してんの?意味わかんないんだけど」とやや半ギレしながら切れた着物の袖とやっぱりまた焦げたらしい裾を見せてくれた。
おつかれさまです。

あたしはと言えば、大谷さんから外出禁止令にも似たものを出され、結局真田軍が逗留している間、佐助だけでなく幸村とも顔を合わせることはなかった。
後々に話してくれた紫ちゃん曰く、幸村はあたしと会えないことを残念がってくれていたようだ。
だけど「また手合わせをお頼みしたかったのだが……」ってのは勘弁していただきたい所存。


毛利、真田と同盟が終われば、あと恐らく同盟を組むだろう相手は長曾我部、島津辺りだろうか。島津は微妙だな。鶴ちゃんも可能性はある。
同盟を組む、というか組みに行く、っていう点で考えれば雑賀衆がダントツなのだけど。そういえば何で未だに雑賀衆行ってないんだろう、あれどこのルートでもだいたい一戦目だったのに。

なんてぼんやり考えていれば、数日後に大谷さんから、あたしと紫ちゃんへお達しがあった。

これから本格的に、同盟を含め戦を始める、と。
まずはあたしと紫ちゃんに、雑賀衆へ行って欲しいとの事だった。三成に行かせるよりは易く事が進むかもしれないとは大谷さんの言で、うんまあ確かにな?とゲームの内容をぼんやり思い出す。
石田方に付いてくれるのなら、殺しはせず、力を見せる程度に。徳川方に付くと言うのなら殺してしまえ、と。……果たしてあたしと紫ちゃんは孫市を殺せるのだろうか。不安しかない。
そして未だに西日本側で、しかし西軍に入るつもりも無いらしい地方領主である尼子の撃破。これを聞いた時には地方領主好きの紫ちゃんが小躍りしていたが、あの子は尼子を殺せって言われてんだと理解してんだろうか。してるんだろうな。

それから安芸辺りで三成と大谷さん率いる石田軍と合流し、共に四国へ行き、あっちからコンタクトをとってきていた長曾我部軍との同盟。次に大谷さん側から何度か手紙をやりとりしていた鶴ちゃんとの同盟。
そのまま九州へ行き、ザビー教を下してから島津を撃破。可能性があるならば同盟も。

西を制覇し終えれば、関ヶ原も近い。
中立を保つ前田、未だ東西軍どちらにもついていない北条や上杉辺りが不安要素ではあるが、それはまあ追々、ということらしく。
そんなんで大丈夫か戦国時代。


「しっかしまあ、うちらが兵を率いるなんて出来んのかねえ」
「私、指示出すとか絶対無理なんだけど……。もうなんか、あ、ウィッス、頑張ってくださいッス、って感じだよ」
「それもどうなの。もうちょいこう、頑張ろうぜ……」
「もう私端っこの方で寝とくからさ……あと朱ちゃんよろしく……スヤァ」
「おい起きろ、寝んな」

けらけらと紫ちゃんと笑い合う。
官兵衛の事を考えたら、紫ちゃんとこうやってしょうもない話を出来るのも、あと少しだけかもしれない。紫ちゃんがどうするつもりなのかは未だにわからないけど。
あたしも紫ちゃんに話してないことはたくさんあるけど、紫ちゃんにもあると思う。
でもそれは信頼してないからとかそういうわけじゃなくて、話す必要がないからだ。友だちだからって、何でも話さなきゃいけないわけじゃない。
あたしは紫ちゃんを信用してるし、紫ちゃんが決めたことなら、やっぱりそれを応援したい。
改めて、そう思った。

「朱ちゃんもいっそ佐助みたいに分身出来たらいいのにねえ、影似てるし」
「殺すぞ」
「エッ何で!?理不尽!」



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