そんな君が好き [72/118]


朱ちゃんがいないので、どうにかこうにか自分の力で官兵衛さんのとこまで行っていた。井戸のある場所までのぼって、井戸に飛び込んで。私の部屋から官兵衛さんのいる座敷牢までは、やっぱり二十分もかかった。
何日もかけて行った九州と比べれば近いものだけど、それでもこの距離が私はどうにもかなしかった。


「おお、紫じゃあないか!」

私が座敷牢にやってくると、手持ち無沙汰に鉄球をいじっていた官兵衛さんは嬉しそうに笑いかけてくれる。
それが私も嬉しくて、ほっぺが緩む。

官兵衛さんはかわいい。不幸体質というか、ちょっとドジなところも、頭は良いはずなのにどことなくバカなところも。
それでも全てを暴力で解決しないこの人はやっぱり頭が良くて、そして優しい。
自分のことも、自分の立つ場所も理解していて、理解した上で更に上を目指して、大きな夢を持って、その夢を実現させるだけの力は持っている。
私は、そんな官兵衛さんが好き。
そんな官兵衛さんが報われるところを見ていたいし、出来るのなら共に歩いていたい。
それがプレイヤーとキャラクターという関係でも良いと思っていたけれど、今は。

「うお、お、どうした紫?」
「……いや、官兵衛さんは、あったかいなあと思いまして」

今は、官兵衛さんに触れられる。

照れてるのか、ほんのり赤くなった顔でぽりぽりとほっぺをかいている官兵衛さんを見上げて、笑う。
この人に天下をとらせてあげたい。夢を叶えさせてあげたい。
私は、隣だなんて言わないから、せめて後ろから、そんな官兵衛さんの手助けをしたい。

「官兵衛さん、ここから出たいと、思いませんか?」

ぽつりと呟いた。
ここに官兵衛さんを閉じこめたのは、刑部だけど、私でもあるのに。何を言ってんだと思われただろうか。
なんとなく官兵衛さんの顔を見ることが出来なくて、俯く。

と、わしゃわしゃと両手で髪の毛をかき乱された。
時々、枷が頭に当たって痛い。

「お前さんが何を気にしてんのかは知らんがな、小生は必ず天下をとる。そうしてお前さんと祝言をあげるんだ。小生の嫁になってくれるんだろう?」
「それは、もちろんです」
「今は刑部の言う通り動いてやるさ。だが、最後に笑うのは小生だ!」

からからと笑う目の前の人が、眩しかった。
ああもう、やっぱり官兵衛さん、大好き。

「いつか絶対、私が、ここから官兵衛さんを連れ出します」
「紫……」
「それに枷も、絶対、はずしてみせます」

絶対に。

枷に繋がれた官兵衛さんの手を握りしめて、誓う。
私はこの人のために生きよう。
官兵衛さんのために、この世界で。


「ちょーっと聞き捨てらんないなー」

はっと顔を上げて、声の聞こえた方へ顔を向ける。
官兵衛さんが何でか、かばうように私の前に出て、まっすぐに声の主を睨み付けていた。
けらけらと軽い笑い声が座敷牢内に響いて、声の主は片手を上げる。

「おひさー、ってほどでもないか」
「朱、ちゃん……」

妙に疲れたような表情で笑う朱ちゃんが、そこには立っていた。

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