歪な直線 [47/118]


若干卑猥注意


思考回路がはっきりしてきたのは、多分佐助、があたしの股の辺りを布で拭いている時だった。
ちらと目をやれば、佐助が「あ、薬切れた?」なんて笑いかけてくる。
色々言いたいことは山のようにあったのだけど、開いた口からは吐息しか漏れでなくて、喉がからからだった。
よく覚えてはいないけど、あんだけ喘いでたんだから仕方ないかもしれない。

何も知らない、何も言われてない、あたしは忍じゃない、そんなことを何度も言い募りながらどれだけの時間喘がされていたのやら。
一周回って、これはもう笑うしかない。
多分ご飯に媚薬かなんか仕込まれてたんだろう。二次元世界恐ろしすぎ。
今度から真田軍で出された物には口をつけないと心の中で決意する。

「すっごい慣らしたつもりだったんだけど、ちょっと血が出ちゃったね」

お前の所為だけどな、と心の中で返したと同時に、身体の中から何か、液体が出て行く感覚に顔を顰めた。なんだこれ。

「っはは、拭いても拭いても出てくる。いっぱい中に出しちゃったからかなー」
「……、…は……?」
「あれ、気付いてなかった?中に出してもいいよねって訊いて、いいって言ったのは朱ちゃんだよ」

おい、おいおいマジか。それは笑えないよ佐助さん。
一瞬で顔から血の気が失せる。また、中からこぽりとそれが、多分、あの、アレが溢れ出てきて、もう顔どころか全身から血の気が失せていくのを感じた。
中出しオッケーとか、そんなん、答えた記憶無い。そんなの了承できるはずがない。
必死に茹だりまくりの記憶を辿り寄せて、はたと気が付き、絶望した。
「っも、ど、でも…いい……」とかなんとか、掠れまくった声で呟いた記憶を発見してしまった。過去の自分をこんなに殴りに行きたいと思ったのは初めてだ。

これ、あたし孕んだらどうすんの。
目の前にいる飄々とした男がひたすらに理解できなくてこわい。真田の忍頭に犯されました、中出しされました、孕むかもしれません、って、こんなの誰にも言えるわけない。
膣内洗浄とかアフターピルとか、考えはするけどそんなのこの時代にあるわけなくて、ああ現代医療って素晴らしいななんて現実逃避はものの二秒で終わった。

「ま、こんなもんでいっか」

ぽいっと布を放った佐助が、再びあたしに覆い被さってくる。
数回のキスの後、にっこり笑った佐助はそれはそれは満足そうで、どことなくつやつやしていた。
こいつ、いつか殺そう。そんな物騒なことを引きつった表情で考える。

「……あたしが忍じゃないって、わかってたっしょ」
「あれ、バレてた?」

まだ声は掠れていたけれど、不覚にも先の佐助から口内に流し込まれた唾液のせいで喉が潤ってしまったので、なんとか喋ることはできた。
しかし佐助の唾液甘いな。

「佐助はみつなりさまとちがう、何が嘘で何がほんとかくらい、わかる。あたしの言ってること、全部ほんとだってわかってるうえで、疑ってる振りしてあそんでた」

そうでしょ?とどことなく舌っ足らずになってしまった口調で告げれば、佐助はあたしの目尻に口付けた。
「だから好き」と返事になってない言葉を返され、溜息を漏らす。
この人の相手、本当にしたくない。

「もー、朱ちゃんてば、これ以上俺様を惚れさせてどうしようっての」
「あたしは日に日にあんたを嫌いになっていきますよちくしょう……」
「そう言わないでよー、俺様泣いちゃう」
「ぐすん、ってか。幸村殿に言いつけてやる」
「だからほんとそれだけは勘弁して!」

うっせーよあたしの処女の代価がそれで済むなら安いモンだろ、と唾でも吐きたい気持ちになりながら呟けば佐助はにまにまと笑うだけだった。ああ、うざい……。

「佐助、絶対おかしい」
「うん知ってる」

漏らした罵倒にあっさりと返されて、ちょっと面食らった。
あたしを見下ろす佐助の顔は相変わらず笑っているままだけど、目だけが複雑に揺れている。
……そんなんで絆されたりしないぞ、あたしは。絆したいのなら家康ばりにぶっ絆す勢いで来い。

「朱ちゃん、最後の方、ずっと凶王さんの名前呼んでたよ。気付いてた?」
「…………まじかよ」
「ごめんなさいごめんなさいって何回も謝ってた。俺様ショックだったなー」

思わず、閉口。
まじであたし三成の名前呼んでたの、ごめんなさいって、別に三成と付き合ってるわけでもないのに何言ってんだ。
もしかしたら三成を裏切っちゃったとか思ってたのかもしんないけど、裏切りも何もまだ何も始まってねーんだから謝る必要無いでしょう。自分よ、しっかりしろ。
いや薬飲まされてて頭茹だってたから仕方ないかもしれんけども。

はたと見上げた佐助の視線に、影が差していることに気付く。
ちょっぴり眉を寄せてみせれば、佐助は口角を歪につり上げた。

「俺様が凶王さんに、術かけてあげよっか?朱ちゃんを好きになるよーに」
「……何言ってんの」
「そしたら朱ちゃん、俺様のこと好きになるかなーと思って」

馬鹿じゃないのかこの人は。
あたしを欲しいと言ったり、無理矢理犯してきたり、三成に術をかけてあげようか、って、発言が矛盾してる。

「佐助って、……歪んでる」
「うん」
「あたしは三成に愛されたいわけじゃない。愛されたいけど、好かれたいけど、でもそんな紛い物は欲しくない。あの人があたしの為に生きてくれないなら、あたしが、三成の為に生きればいい話だもん」

ほとんど夢うつつのような脳内で、こぼした。
佐助がくすりと笑んで、あたしの前髪を払うように撫でる。

「朱ちゃんも大概、歪んでると思うよ」
「佐助よりはマシだよ」

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