渦巻く感情 [24/118]


どうしてこうなった。

「金吾の様子を見に行く、紫、貴様もついてこい」と三成に言われた時は、「マジですか超行きます!」って私もかなりハイテンションだったのだけど。
金吾さんと鍋をまぐまぐしてあわよくば天海様とお話するんだ〜なんて、本当にハイテンションだったのだけど。

ああ、まあ、そうだよね。大阪から岡山までなんだから時間かかるよね。
もちろん馬使うよね。そうだよね。

「……」
「どうした、紫。気分でも悪いのか」
「……いえ、大丈夫です」

こんなの知られたら私、朱ちゃんに叩っ斬られるんじゃないだろうか。

今、私は三成と共に、立派な馬にまたがっていた。
手は三成のほっそい腰に申し訳程度に添え、がくがくと馬に揺られながら心の中で冷や汗をだらだら垂れ流している。

いざ着いていくとなった後に、すぐに気が付いて「私、馬に乗ったこと無いです」と三成に告げた。
誰か……一般兵が馬を引いてくれるか、それとも駕籠でも出してくれるか、いざとなったら歩きでも良いか、と考えながらの言葉だったんだけど。
それに対して三成が言ったんだ。「ならば私の後ろに乗れ」と。
いつも通り「嫌です」と即答したのだけど、強制的に馬の上へ乗らされてしまっては、私に逃げ場はなかった。
……馬からおりるのってどうすればいいの。踏み台ください。

脳内で想像してみる。
官兵衛さんと朱ちゃんが馬に二人乗り。しかも官兵衛さんは逐一朱ちゃんの様子を気にかけていて、朱ちゃんが馬酔いしそうになったら少し速度を緩めてくれる。「無理はしなさんな、お前さんの体調が小生には一番大事なんだからな!」って、官兵衛さんが、朱ちゃんに、笑いかける。
……あっ無理。朱ちゃん呪い殺しかねん。ついでに官兵衛さんも。殺してやるぞおおおお!だわ。
ってことはやっぱりこれが朱ちゃんに知れたら、きっと朱ちゃんは私と出会うと同時に「血の雨よ、降り注げ……」って雑魚兵斬りつけながらゆっくり歩み寄ってくるんだ……!
なんか隠してるのも罪悪感やばいけど、これは、バレんようにしよう。私も自分の命が惜しい。

「……紫、何をぼんやりしている。……やはり気分が優れないのか?」

ちらっと横目で私を見てくる三成に、いやもう、ほんとこの人私のこと好きだな?と複雑な気持ちになる。

「大丈夫ですから、気にしないでください」

何で私なんだろう。
こう言っちゃなんだけど、三成が朱ちゃんを好きになってくれていたら、全部丸く収まってたかもしれないのに。
友達の好きな人が自分を好きとか、昼ドラもええとこじゃないですかーやだー。……なんて、茶化してもいられない。
自分を朱ちゃんに置き換えて、三成を官兵衛さんに置き換えてみたらそんなの、本当に嫌だと思うし、かなしい。

朱ちゃんはいつも何でもない事のように三成のことを話すけど、もう何年もの付き合いだからさすがにわかる。
刑部のことは大谷さんって呼んでんのに、三成のことは、私と話す時以外ずっと、三成様って呼ぶようになったのは。きっと朱ちゃんなりの線引きだ。
自分は三成を恋愛対象に見ているわけじゃないっていう、自分への線引き。

「……誰も悪くないからこそ、」

つらい。でもそれは、私以上に、朱ちゃんが。

三成に「何で私を好きになったの」って怒るのはお門違いだし、私が朱ちゃんに「三成に好きになられちゃってごめんね」って謝るのもおかしい。朱ちゃんが三成を好きなことだって、何も、悪い事じゃない。
恋愛って本当、うまくいかないよな……。

「何か言ったか、紫?」
「いえ……何も」

朱ちゃんはこれからも、笑って、私と話してくれるだろうか。

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