ぐるぐる、 [23/118]


「えっ、紫ちゃんいないんですか」

朱と吉継が大阪城へと帰り着いた翌朝。
朝食の膳を朱の部屋へと持ってきた女中の話を聞き、朱はぽかんと口を開けた。

「ええ、朱様と入れ替わりになられるように。昨日、三成様と少数の兵と共に、小早川様の元まで向かわれました」
「はー……そうなんすか…」

道理で見かけないと思った、と朱が納得している間に、女中は頭を下げ部屋を後にする。
ほかほかと湯気をたてる膳に箸をつけながら、どうしたもんかと眉を寄せた。

吉継、元就に対して「四国の件を自分と紫に任せてください」という旨の発言をした朱は、帰阪してすぐに紫と四国のことについて話をするつもりだった。
が、大阪城に到着したのが予定していたものより遅い時間だったこともあり、まあ明日でもいいかと朱はすぐに床に就いたのだ。
紫に宛がわれた部屋である隣室が静かなのも、既に紫が寝てしまっていたからだと思っていた。
まさか、三成と共に烏城へ行っているとは。

「……、」

朱は考える。
正直なところ、影送り(先日命名)を使えば紫のいる場所へ行くことは容易だろう。
暫く会っていないから話したい事も多々あるし、行けばいんじゃね?と自問する。
が、三成が紫と共にいるということが、朱にとってはちょっとした懸念事項だった。

三成は紫を好いている。それは恐らく、間違いない。
そんな三成がわざわざ紫を連れて行ったのだから、きっと、邪魔をして欲しくは無いだろう。
それが自分ともなると、尚更。

深い溜息をこぼし、箸を置く。
ごちゃごちゃになった思考回路が出した結論は、めんどくさい、で。
それは詰まるところの思考放棄なのだが、朱はもう何も考えたくないとばかりに目を伏せ、静かに首を振った。

――今すぐに四国へ行けと言われたわけじゃない。紫ちゃんが帰ってきてからでも充分に間に合う。アニキの動向は毛利が文で教えてくれると言ってたんだし、それを待ってからでも遅くない。

「……言い訳」

自分はただ、三成が紫だけをその目に映しているところを、見たくないだけだ。
嫉妬すらできない現状に息苦しさのようなものを覚え、朱は伏せていた視線を上げ、再び箸をとった。

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