ツン:デレ=4:6 [20/118] 止血をしてから薬を塗り、包帯を巻く。 大谷さんと毛利は既に佐助を迎えるため外へと出ていて、あたしは一人ぽつんと、薄暗い部屋に残されていた。 しかし、部屋を出ていく前の毛利にすっごい睨まれた気がしたんだけど、あたしは何かしただろうか。まったく身に覚えがない。 小太郎にもらった金平糖を口に放り込みながら、まだずきずきと痛む左腕を撫でる。 なんというか、この世界のこと舐めてた。 元の世界の自分と比べたら格段にスペックは上がってるだろうと思う。楽に動けるし、スタミナも増えたし、だいたいの動きは目で追える。 だから、なんとかなるだろうと思ってた。誰が相手でも。 それがこの様なんだから、笑うしかない。 「……武田道場行きたいわ、」 苦笑気味に呟いて、金平糖を口の中で転がした。 ――… さて、時は進んで毛利の城なう、である。 大谷さんと毛利は適当に佐助と遊んだあと多少の言葉を交わしてから引き上げ、水軍は安芸へと戻っていった。 船が港に着いてからは、あたしと大谷さんは帰る予定だったのだけど。 あたしの怪我を指して「暫く休んだ方が良いのではないか」なんて毛利が言うもんだから、うっかり二、三日お世話になることになったのでした。っていう。 毛利の城仕えである医者にちゃんとした処置をしてもらって、部屋も衣食も与えられて、知らぬ間に服まで縫ってもらっちゃって、となかなかの好待遇に妙な気持ちになる。 「ぬしは毛利に好かれたようよな」なんてけらけら笑ってた大谷さんには「冗談じゃねえですよ」と変な返しをしてしまった。 のだが。 「怪我はもうよいのか」 「……、」 わざわざあたしの部屋にまで足を運んでくださった毛利さんを見ると、もう、なんか、もう……っ!混乱するしかない。 向かい合わせの座布団の上に座って、毛利と向き合って、あたしは今とても複雑な笑顔を浮かべている。多分ほっぺの辺りに冷や汗垂れてる。 「おかげさまで、まだ少し痛いですけど」 「まだ痛むのか」 「まあ、でもちょっとなんで」 「痛むのなら、もう少し休むべきではないのか」 「移動が難しい程じゃないんで。それに毛利さんにもご迷惑でしょうし」 ぐいぐいくるよこの人ぉ……。 えっウソ!毛利さんあたしの事好きなの?きゃぴっ!みたいな気持ちはまったくもって無いんだが、なんというか、わけがわかんなくて怖い。 いっそ好きだ!って言ってくれた方が意図が読めて楽なレベル。 まあそう言われたらそれはそれで困るんだけども。 「我は、迷惑などでは無い」 「……」 顔赤くしてちょっと俯くとかどういうことですのん……。 「耳まで真っ赤じゃねーか……」 思わずぼそっと呟いてしまえば、毛利はバッと両手で耳元を押さえて半ば睨むようにあたしを見やった。なにこの乙女っぷり。 そして毛利の顔はどんどん紅潮していって、目元なんかもはや泣きそうですらある。 どんだけ恥ずかしがってんの。乙女か。 あたしが鈍感だったら良かったのだろうか、そしたら「あれれ〜毛利さん風邪引いてるのかなあ?」みたいな感じでスルー出来たのに。 そしたら、こんな生ぬるい視線を毛利に向けることも無かったろうに。 「……死ねッ」 「えええ」 ぎゅううと唇を噛んでると思えば、呻くようにそう呟いて毛利は立ち上がった。 突然の暴言にあたしは驚くしかない。まさかいきなり死ねって言われるとは思わなかった。 毛利はそのまま部屋を出て行こうとずんずん歩を進め、スパァンと襖を開ける。 かと思いきや勢いよくあたしの方へ振り向いて、ほとんど叫んでるような言い方で捨て台詞を吐いた。 「後で薬師を来させる!」 「エッ、ハイ」 うん、まあ、なんだ。 どうやら毛利に好かれているらしいことは、とりあえず保留として。 こいつツンデレの類か、ってことだけは理解できた。 |