苛む影 [19/118]


改めて佐助に向き直り、傘をくるりと回す。
佐助も手裏剣を回し、戦闘態勢に入ったようだった。

しっかし、遊びにきたとは言え、未だにどうやって戦えばいいのかはイマイチわかってない。
影の中を移動出来る事と、この傘の柄が仕込み刀になってる事くらいしかわかんないんだから。
……太陽は佐助の背後にある。今は日が高いから、影は濃いけれどあまり伸びていない。
ううん、まあ、どうにでもなるか。
無理っぽそうだったら逃げればいいんだしね。

「ところで真田の忍さん、必要な情報は手に入りました?」
「……そうだね、後ちょっと、ってとこかな」

傘を前におろして影を作り、佐助の背後へと移動する。
佐助は瞬時にそれに反応して、あたしの立っていた場所へと手裏剣を振りかぶった。こっわ。
バックステップでそれを避け、折り畳んだ傘で一方の手裏剣を払う。
かたん、と音を立てて遠くに吹っ飛んだ手裏剣を横目に見やってから、右足で佐助の足を払おうとした。が、佐助は軽く跳んでそれを避ける。
そのままあたしから距離を取り、佐助はひとつだけになった手裏剣を再び構えた。

「アンタの移動法、なんか俺様に似てない?」
「そう?」
「そうそう、ちょっとびっくりしちゃった」

にやりと笑ってみせる佐助に、そう?と返したものの、実はあたしもそう思ってた。
影、という制限がある以上、もしかしたら佐助より不便かもしれないし、便利かもしれないけど。そこら辺はわからん。

「で、アンタは凶王さんとこの忍なんだっけ?」
「……それが何か」

忍じゃないって訂正したいなあ、と考えつつ、佐助との攻防を続ける。
戦いながらでもこんだけ喋る余裕があるんだから、佐助は多分手加減してるんだろう。
あたしはあたしで戦い方を手探りしてるから、二人とも本気じゃないってことだ。

まあ、怪我をしてまで倒さなきゃいけないような局面でも無いし。

「いや、こんなかわいー子、どこの里でも見たこと無いなーって思って。どこに隠し持ってたのやら」
「褒めても何も出ませんよ?」
「あらら、そりゃ残念っ」

ひゅっ、と風を切る音がする。
目の前にはにんまり笑顔の佐助。手裏剣であたしの傘を防ぎ、空いた片手が何か、妙な動きをしている。
ハッとして、左斜め後方に視線を向けた。

「――っ、」

左の二の腕を手裏剣がかする。辛うじて避けたから深手ではないけれど、ぎりぎり骨まで届かないくらいの位置までは抉れただろうか。
さっき払い落とした手裏剣を、糸で引き寄せたのか……。うっかりしていた。
もらったばっかの服が破れた事にショックを感じ、それ以上に、痛い。めっちゃ痛い。

「ごめんねー、俺様お仕事だから。かわいー女の子相手でも容赦できないの」
「……あんだけ手加減しといてよく言うわ……」
「あ、わかってたんだ?」
「その顔すっごいうざい」

うざいの意味はわかんないけど貶された事はわかったらしく。
佐助は小さく笑って、左腕を庇うあたしを地面に押し倒し、手足を封じた。あー、傘も吹っ飛ばされた。
いやはや、なんというか。さすが、強いわ。
やっぱり名前持ち武将相手となると、手も足も出ないか……まあロクに自分の戦い方わかってないんだし、経験の差かね。

「あれ、自害しないの?」
「そういう教育受けてないんで」
「ふーん?凶王さんも甘いんだねぇ、それとも大谷の方かな」

佐助の手が、首筋を撫でる。

今回は自分がどれくらいやれるのかを見たかっただけだし、もう良いだろう。
ここで殺されたら元も子もない。大谷さんには連れてくるよう言われてたんだから、そろそろあっちに戻るべきだ。
影なら、覆い被さってる佐助のものがある。

「にしても、ちょーっと残念」
「……?」

はあ、とわざとらしい溜息を吐く佐助に、眉を寄せる。
あたしの目元を撫でて、もう一度、溜息を吐いた。

「見目も良いし、体つきも俺様好み。先に見つけとけば俺様が育てたのになー」
「は、はあ……」

予想外な台詞に、なんだか拍子抜けしてしまう。
まじで飄々としてんなあと若干遠い目になりつつ、さすがにそろそろ左腕の痛みが限界なのと、血が予想以上に流れてるのが心配になってきたので、影に意識を集めた。

「まあそれは良いとして。なんなら今、アンタが情報話してくれてもいーんだけど?」

その言葉ににっこりと笑い、東の船へ、と影に念じる。

「……直接訊けばいんじゃない?その方が早いと思うよ」

瞬間、とぷんとあたしと佐助が影の中へ沈む。
一番大きい船に繋がる船へ出たと同時に隙をついて佐助から離れ、あたしはすぐに大谷さんの元へ、また影を使って移動した。

予想以上の怪我をしていたあたしに大谷さんと毛利がちょっとだけびっくりしたのと、「あっ傘忘れた」とあたしが気付いたのは、ほんの少し後のこと。

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