潜ってひそんで [18/118] いやに毛利はこっちを見てくるなあ、と複雑な気持ちになっていた頃、少し外が騒がしくなってきた。 勿論それは毛利も大谷さんも気付いていて、「外が騒がしいようだな」なんて言いながらも、気にもせず話を続けている。呑気というかなんというか。 「少し外の様子を見てきても?」 「よいよい、行ってきやれ」 あっさりと返された言葉にちょっと拍子抜けしつつ、じゃあ行ってきますと影に沈む。 ……あっこれは完全に忍っぽいな?と気付いたのは、船団の中でも一番大きい船の隅っこにある影から抜け出た瞬間だった。 この船に兵はいない。 大谷さんと毛利、そしてあたしの三人だけだ。また船同士を繋ぐ道もなく、易々とは入り込めない。 が、ゲーム通りに進むと考えるとあのスタイリッシュ忍者がダイナミック架橋すんだろう。あれは初見時くっそ笑ったなあ。忍ならもっと忍べよ。 ひとまず橋がかかってないとこを見ると佐助はまだか。 と、なると。 「いっこずつ見てくかな」 とぷん、とまた影に沈む。 まずは自分のいた船を除いた五隻の中で、最北に位置する船。隅っこの影に顔をちょっとだけ出し、毛利軍の兵しかいないことを確認してからどんどん南下していく。 南東、上から三つ目の船で、猿飛佐助らしき姿を見つけた。まじで迷彩ポンチョだ。 おーおー雑魚兵蹴散らされとる、と影に隠れながら状況を眺め、どうしたもんかと頭を捻る。 放置、は多分ダメだよな。 この佐助は毛利と大谷さんが同盟組もうとしてる、って情報だけでも手に入れればいいんだろうし……ちょっと相手してさっさと帰って貰うのが一番かもしれない。 ああでも戦えるかなあ、と考えたとこで、傘を大谷さん達のとこに置いて来てしまったことに気が付いた。バカ。 傘を取りに行ってる間に、多分四つ、五つ目の船もとられるだろう。 兵はどうやら全てが死んでるわけではないようだし、小太郎の船へ行ってくれればあたしも動きやすい。 ……そうするか。 今後の行動を決めて、また影に沈む。すぐに出たのは大谷さんの背後で、毛利が少しびっくりしているように見えた。 「外の様子はどうであった?」 「間者?忍?が入り込んでたみたいです。ちょっと相手して帰ってもらおうと傘取りに来たんですけど……もしかして大谷さん相手したかったりします?」 「それがどこの忍かにもよるなァ」 「……真田のとこの忍頭っすよ、多分」 ヒッヒと笑う大谷さんを横目に、とりあえず傘は手にとっておく。 大谷さんは毛利と二言三言交わしてから、あたしの方へ振り向いた。 「ぬしも遊んでみたいのであろ?適当に相手でもして、われらの船へ連れてきやれ」 「はあ、了解です」 傘の具合を確かめ、影を使い今度は佐助の背後へ移動する。 ちょうど小太郎と戦闘中だったらしく、突然現れたあたしの姿に二人共が驚いていた。特に小太郎が。 「新手の忍か……っ」 だから忍じゃないっちゅーに、と返したかったが、まあ黙っておく。 今は別にどう思われてたとこで関係無いんだし。同盟組んだら誤解といておこう。 「君は情報とれたならさっさと帰んなさい、北条の忍くん。そっちの真田の忍さんは……」 じっとこっちを睨んでいる佐助に笑みを向け、ばっと下向きに傘を開く。 にっこり笑って、傘を差した。 「ちょっとだけ、あたしと遊びましょーぜ」 あたしの言葉を聞いて、すぐに佐助はあたしから距離を取り戦闘態勢に入った。 ひゅるるん、と大きな手裏剣を回して、少しだけ興味深そうにあたしを見ている。 と、帰れっつったのに小太郎があたしと佐助の間に入った。それには佐助も少し驚いたようで、目を丸くしてるのが見える。まあそれはあたしもなんですけど。 案の定表情は読めないけど、なんとなあく、「何で此処にいるのか」って言いたいように思えた。 だから、放置プレイかまされてる佐助には悪いけど、傘をくるくると回しながら答えることにする。 「言ったっしょ?またどっかで、って」 「……、」 「アンタ、毛利軍の忍なの」 警戒心だだ漏らしな佐助が間を割って問いかけてくる。 それには「はずれ」と手で作ったバツと一緒に返し、小太郎に視線を向けた。 「さっきも言ったけど帰りなさいな。君の事だから仕事は終わりでしょう?あんまり君とは戦いたくないんだよ」 ふるふる、と首を左右に振られる。 「帰らないってこと?まだなんかあるの?」 また、首を左右に振った。意味が分からない。 「何か訊きたいの」と問いかけてみても、小太郎はだんまりのままだ。ちょっとめんどくなってきた。 すると小太郎は静かに、あたしを指さす。 そうして首を小さく傾げて、遠くに見える大きな船へちらっと視線を向けた。 ……うん、ごめん。わかんない。 「……アンタが誰の味方なのか、訊きたいんじゃない?」 「え、おう……そうなの?」 佐助の言葉に、小太郎はちょっと口をへの字に曲げてから、こくんと頷いた。 「ふうん……。忍相手に自己紹介すんのもどーなのって感じだけど、まあ隠しとく必要があるわけじゃないしなあ」 個人的には小太郎も佐助も好きだから、仲良くなれたらとは思うけど。 でも佐助は良いとして、小太郎は東軍なんだよね。……まあどうにでもなるか。 「あたしは朱、今は……そうだね、一応、石田軍の人間だよ」 どうせここに大谷さんがいることはバレてんだし、まあいいでしょう。ダメだったらごめんやで。 小太郎はあたしの言葉に小さく頷いて、あたしの手を取り、そこにちっさい巾着袋を置いてから去っていった。 風のように、あっという間に。その場には黒い羽根だけが残っている。 あれは、追えないかもなあ。 「なんか俺様よくわかんないんだけど、アンタとアイツ、知り合いなの?」 「まあ、そんな感じっすわ」 掌に乗せられた巾着袋の中には、たくさんの金平糖が入っていた。 |