はれんち! [16/118]


「っていうか今はそれより影の事ですって!やりますよ!?」

とは言ったものの、どこに行けばいいんだろう。
明確なイメージが無いと行けないのかな。
ここからかなり離れたところに行ってみないと、どれくらいの距離を行けるのかがわからないし。とはいえ人の前に出るのはちょっと、憚られる。
確かこの宿はまだ大阪の中、のはず。
となると大阪城から、小太郎と会った山の中くらいまでの距離しか無いかもしれない。

ここから遠い場所……。
そうぼんやり考えて、浮かんだのは。

「……さっむ!?」
「ここは……」

恐山冥府戦ですねわかります。
そのスタート地点に、あたしと大谷さんは座り込んでいた。
ただひたすらに寒い。北の大地やばい。こんな薄着で居ていい場所じゃない。

人に見つかる前に、とすぐにさっきの宿まで戻れば、なんとなくずっしり身体が重たくなった気がした。疲れた、のか。

「少なくとも二人での移動は出来るようよな」
「そ、ですね。大阪から北の端まで移動出来るなら、多分、距離に制限は……はー……無いんじゃないすか」
「しかし、ぬしへの負担も相当なのではないか?」

時間差でずどんと来た疲労感に、真っ暗な大谷さんの部屋の中で踞る。
百メートル走を全力で走った直後みたいだ。心臓がばくばく鳴ってて、身体が重い。一歩も動きたくない。

距離の所為もあるかもしれないけど、光を遮って出来た影の中を五回も移動した昨日の晩は全然疲れなかったのに、こんなに疲れるなんて。
もしかしたら、暗闇の中でも力は使えるけど、ちゃんとした影の方が楽に使えるのかもしれない。

けれど、とにかく疑問に思ってた事は解消できた。
他に何か制限はあるかもしれないけど、少なくとも大谷さんとは影を使って移動できる。
影じゃなく、光が無い場所でも移動は可能。遠距離でも大丈夫。
なんか遠く、の辺りで移動しなかった事を考えると、明確なイメージがある場所じゃないと移動できないのかもしれない。

「……とりあえず、くっそ疲れたんで今日はもう寝ます……。付き合ってくれてありがとございました」
「それは構わぬが、朱よ、動けるのか?」
「、……」

ふらふらはするけど、実際に筋肉が疲労してるわけじゃないし、動けなくはない。
壁伝いに立ち上がれば、まあ隣の部屋だし大丈夫だろう。

「多分、だいじょぶ、です」
「……さようか」

ずっと触れていた大谷さんの手から離れ、なんとか立ち上がる。
おおお立ちくらみやっばい、と壁に手をついて目を閉じ、脳が揺れる感覚をやり過ごす。数秒でやっとはっきりしてきた脳内に、小さく息を吐いた。

もうあんな遠距離移動、絶対しねえ。

ずるずる、足を引きずるように障子まで向かい、引き戸に手をかける。
そこではたと先の会話を思い出して、顔だけ大谷さんの方に向けた。大谷さんはじっと、あたしを眺めている。

「そういえば、不躾な質問しますけど」

一拍の間を置いて、言葉を続ける。

「大谷さんって、あたし相手に勃つんです?」
「…………」

ずいぶんと長く感じた沈黙が落ちた。
けれどすぐに、ヒッ、とえらく高い声が聞こえ、直後、堰を切ったように大谷さんの笑い声が部屋に満ちる。
ツボった引き笑いこっわあ、とあたしは半ば呆然としながらそれを眺めているわけだが。

大谷さんは一頻り大笑いしたあと、ひーっひーっ、とつらそうにお腹を押さえながら目尻に浮かんだ涙を拭っていた。どんだけ笑ってんだよこの人。
なんか答え返ってこないっぽいし、まあ勃つって言われたら言われたでちょっと怖いし勃たないって言われたらそれはそれでちょっと切ないし、帰るか……とあたしは静かに障子を開く。

次の瞬間、どこからともなく飛んできた珠に思いっきり背中殴られた。

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