構いませんよ [14/118]


馬なんか乗ったこと無いですよ!?と半ギレ気味に伝えた結果、安芸まではのんびり歩いていく事になった。
これ、え、つくのいつになるの?数ヶ月後とかになんない?
大阪から広島までってどれくらいの距離なんだろう……新幹線で一時間半くらい……?ってそんなんわかっても実際の距離は学のないあたしにはわからん……。
いざとなったらあの影のやつで移動したいけど、大谷さんも一緒に行けるかはまだわからないしなあ、と溜息をついて、ふわふわ揺れる大谷さんの輿へ目を向けた。

割と仲良くしてくれてる、とは思うけど、まだあたしは大谷さんに触れた事がない。
この人は、人を避けるのが上手だ。
あたしが触れようとしても、綺麗にかわす。触れられるのが嫌なのか、あたしを思ってのことなのか、無意識なのかはわからない。
そんな大谷さんに無理矢理触れる気にもなれず、「大谷さん輿で空飛べるんすからそれ乗せてくださいよー!」なんて事はもちろん言えるわけがなかった。
これでもあたし、結構いろいろ気にするタイプなんすよ。

「朱よ、何をぼんやりしておる」
「え?いやー、安芸までどんくらいかかんのかなあって」
「七日もあれば着くであろ」
「なのか!?」

思わず声が裏返った。
途中宿で休んだりご飯食べたりって時間があるとしても、一週間も歩き続けるとか正気の沙汰じゃない。
「片時も休まぬと言うなら四日で辿り着くと思うが?」なんて大谷さんは笑いながらあたしを見下ろしてくるけど、そっちのが正気の沙汰じゃねーわ。
二十四時間フルタイムで歩き続けるとかどんな苦行?

でも休み休みとは言え、七日もかけるのはさすがにちょっと、嫌だ。
いやあたしが馬に乗れたらもっと早くつけたんだろうけど……。

「……っていうかまず何であたしと大谷さん二人ぼっちなんです?他にも兵士とかつけてくれてたら馬で来れたのに」
「ぬしが現れるまではそのつもりであったのよ」
「じゃあ何で……」

ふわふわ進んでいく大谷さんの斜め後ろを歩きながら、問いかける。

毛利と裏で同盟組むっつっても、現状はまだ敵みたいなもんだろう。
同盟組もうぜ〜っつって誘っておいて、大谷さんが来たところをグサー!なんて事も有り得なくはないはずだ。
そんな場所に、たかだか数日前にぽんと現れた程度のあたしだけを連れて行くってのが、またおかしい。
あたしが他国の間者だっていう可能性も、あるのに。

「ぬしはわれや三成を傷付けようと思った事があるか?」
「は?……いや、無いですけど」
「そういう事よ。われは朱、ぬしを気に入っておる。ぬしは愉快ゆえ」
「……喜んでいいのやら」
「われに気に入られるのは嬉しくないか、さようか」

あ、この人めんどくさいな?と心持ち笑顔になりながら、大谷さんの視界の外で首を傾げてみせる。

「仮に今回の密約が毛利の罠であったとしても、ぬしがわれを守れば問題なかろ」
「あたしが、まあ絶対嫌だけど毛利の間者だったらどうすんです」
「そうよなァ、それは困る。ぬしの装束と傘の金はもう婆娑羅屋に払ってしまったからなァ。毛利に返して貰わねば」
「まさかの金の心配」

予想外の答えに思わず笑って、わらって、歩みを止めた。
少し進んで、大谷さんも止まる。くるりと輿が回転して、大谷さんの白黒反転した目とあたしの目とが、合った。

「先に言っときますけど、あたし、大谷さんのこともう言葉じゃ言い表せないくらい好きなんですよ」
「ほう、さようか。照れるな」
「だけどそれ以上に自分も好きですし、紫ちゃんも大好きです。この世界で名が知れてる人はだいたいみんな好きです」

一歩ずつ、大谷さんへ近付いていく。

「初めて会った時に言ったように、あたしは基本、西軍の為に動きます。でもそれ以上に、あたしと紫ちゃんが楽しめるように動きます。これはあの時言ったら三成様が怒るだろうから言わなかったんすけどね?」

大谷さんは口元に笑みを浮かべて、あたしを見つめている。

「だから、あたしと紫ちゃんに害を与えない限りは、あたしは大谷さんを守ります。誓ったとこで大谷さんは信じやしないでしょうから、誓いはしませんけど」

言い切って、避けないよう周囲にあたしの闇属性のもやを広げながら、大谷さんの輿に片膝を乗せた。
そのまま大谷さんに、思いっきり抱き付いてやる。
さすがに驚いてんのが見て取れて、にんまりと表情を緩ませた。

「つーわけで大谷さんは、あたしから逃げるの禁止!です」

この言動の言い訳をするなら、大谷さんに二度も「気に入ってる」発言されて、あたしが正気でいられるわけがなかった。仕方なかった。って感じである。

大谷さんはただひたすらに驚いていて、暫くしてやっと放心状態を抜けてからは深い溜息の後、笑っていた。

「やはりぬしは愉快な女子よ」

その時の大谷さんの顔は、多分一生忘れないと思う。

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