あかいろを纏う [12/118]


ものすごい勢いで嫌味とからかいを受けたけども、大谷さんの部屋で寝させてもらった日の朝。
朝ご飯を持ってきてくれた女中さんと一緒に、婆娑羅屋の副店主……だっけか、有也さんも大谷さんの部屋に現れた。

「おちびさんと大谷殿は早くに城を出ると聞いたので」と差し出してくれたのは、布に包まれた物だった。二つある。ところでおちびさんってなに。
……一つは形から見て、傘か何かだろうか。

「朱、開けてみやれ」
「あ、はい」

折りたたまれた布を開けば、一つめの方にはやっぱり傘が入っていた。
朱色の、大きな蛇の目傘。柄の部分に椿の花を模したガラス細工のような飾りと紫色の紐がついている。

「その和傘は持ち手の所が仕込み刀になってます。また防弾性にも富んでいて、丈夫です。もちろん雨傘、日傘としても使えますよ」
「おおう……」
「傘という性質上、おちびさんの力とも相性は良いでしょう」

にっこり、貼り付けたような笑みで有也さんはあたしを見た。
……はて、影の事をあたしは誰かに話しただろうか。見ていた小太郎ならまだしも、誰にも言ってないはずなんだけど。
ううん、食えない人だなあ。

もう一つの布を開けば、そっちには服が入っていた。
一分袖ほどの黒い、多分……鎖帷子?のような服。
そしてつるつるとした硬い、革のようなもので出来た二の腕から手首までの長さの、腕当てのような物。アームウォーマーみたいと言った方がわかりやすいかもしれない。
それに、腕のと同じ素材で出来ている、三分丈ほどのスパッツ。
腕のも足のも、鎖帷子と一緒で色は黒だ。
特に目を惹いたのは、ほんのり黄色を帯びた白地に、ややくすんだ赤のラインが入った着物のようなもの。
立ち上がって広げてみても、裾は太ももの辺りまでの長さしか無い。袖の長さも二の腕までしかない。これホントに着物?ていうかどう着ればいいの?
濃い赤の細長い布は……帯というよりは腰紐だろうか。
あとは革製の、何の飾りも無くヒールもさほど高くない、黒のブーツ。

「……?」

昨晩の小太郎のようになりつつ、着物を両手に首を傾げる。
有也さんと大谷さんはそんなあたしを見て少し笑い、有也さんが立ち上がった。

「俺で良ければ、着付けますが」
「え、おお……じゃあお願いします。何がなにやら」

とりあえず一旦自分の部屋に戻り、キャミソールの上から鎖帷子をどうにか着て、スパッツを履く。
その状態で有也さんを招き入れ、逐一説明されながらなんとか用意してもらった服を着終えた。
着物の袖は、腕当ての中にしまうのか……。
なんというか動きやすそうな格好だとは思うけど、どうもコスプレちっくでなんだか恥ずかしい。
仕上げとばかりに紫色の布で髪をひとつに結われ、有也さんは笑顔で頷いた。

「ま、いんじゃねーか?可愛いおちびさんによく似合ってるよ」
「……いきなり口調変わりましたね」
「お偉いさんいねえんだからいーだろ、敬語疲れるんだよ」
「……その気持ちはわかるけども」

しかしさらっと口説いたなこの人。

着替え終えて大谷さんの部屋へと戻れば、大谷さんは「良いのではないか」と褒めてくれた。多分。

「しかし、その格好は忍のようよな」
「あ、大谷さんもやっぱそう思います?あたしも忍っぽいなあって鏡見て思ったんですけど」
「うむ……まあ良かろ」

改めて有也さんにお礼を言えば、「んじゃまたな、おちびさん」とあたしの耳元で囁いて退室していった。
呆然と見送り、朝ご飯にやっと手をつける。なんか、女慣れしてる人だ……。

これを食べ終えたらとうとう毛利のとこに出発すんのかあ、と考え、考えている最中に昨晩の出来事を思い出した。
……影の事、大谷さんには伝えておくべきだろうか。

「……、」
「われの顔になにかついているのか?」
「や、……あー、いえ」

まあ、それは道中でいいか。

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