桔梗の言葉 [11/118]


「良かった、まだいた」

両手に抱えてた風呂敷を地面に落とし、結局また裸足で外出ちゃったよと地面に座り込む。
木にもたれたままの格好で休んでいた小太郎はどうやら驚いているようで、あたしと風呂敷を交互に眺め、少し警戒を増したようだった。

「これ、おにぎりと……あと消毒薬と傷の治りを早くする薬?と増血剤的な薬。ついでに白湯。あと包帯ね」
「……?」
「疑うなら無理して食べろともつけろとも言わないけど、まあとりあえず置いとくから。包帯巻くくらいは動けるっしょ?もう半刻くらい経ったし。んじゃこれ渡しに来ただけだから」

早く帰らないと、下手したら三成があたしの部屋に特攻しかけてくるかもしれない。
あの安息地を荒らされたらさすがにキレかねん。……あっでも帰ったら帰ったであたし本人を葬られそうだな?今夜は大谷さんの部屋ででも寝るか……。

ちゃちゃっと小太郎に広げた風呂敷を押しつけ、立ち上がろうとする。
が、小太郎にパーカーの裾を掴まれた。

「、何?」
「……、……なぜ」
「!!?」
「っ?」

びっくりしすぎて口と両目をかっぴらいたあたしに、小太郎もびっくりしたのか少し身体を引く。
ポカーンの顔文字まんまの顔をして、今起きた出来事を必死に脳内で処理して、けれどあたしが落ち着いて言葉を発せるようになるまではたっぷり一分ほどかかった。

「こ、あー……君、喋れるの……」

今度は喋らず、そして頷くことも、首を振ることもしなかった。
「なぜ」と呟いた声はとても微かなものだったし、少し掠れてもいたから、多くは喋れないのかもしれない。
でも、そっか。小太郎、こんな声だったんだ。

「……優しい声だね」

小太郎の前に座り直し、にこりと笑う。
さっきと比べて実に平和な時間だ。いっそ北条に行ってしまいたい。北条って東軍だけど。

「ああ、何でっつってたんだっけ?ううん、何でと言われると答えづらいなあ。動機の言語化か……あまり得意ではないしな……」
「……」
「……このネタ通じないのか。そりゃそうだわな」

逆に通じた方がびっくりだ、うん。
得意だっけ?好きだっけ?と途中でちょっと悩んだけど、答えもわかんないしまあ今はいいでしょう。

「そうだなー……。いいこちゃん発言だけど、あたしはあんまり、知ってる人は誰にも傷付いて欲しくないんだよ。何で君がそんな怪我してんのかは知らないけど、目の前に傷だらけの人いたら助けたげたいって思うっしょ?そんだけ」

まあ他にもいろいろ考えてたことはあるけど。
沈黙は金、ってね。

「じゃあね、元気になったらまたどっかで」

多分、すぐに会うことになると思うけど。
小太郎に背中を向けて、小さく口角を上げる。
もうすぐ、瀬戸内陰謀戦だしね。多分。

この行動が、この先、どうなっていくことやら。
そんなことを考えながら、あたしはまた、影の中に沈んだ。


ちなみに帰ってきた部屋の襖には大きな刀傷が残っていた。
やっぱり大谷さんの部屋で寝させてもらおうと思う。多分あの人もまだ起きてるだろうし。起きて無くても眠り浅そうだし。

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