ウロボロスの道 [117/118] そこは、殺風景な和室だった。二組敷かれた布団に寝ているのは、あたしと紫ちゃんだ。他には文机と燭台くらいしか無い。 正確な時間はわからない。けれど、外は暗かった。どことなくじっとりと湿っていて、気分が悪い。畳のにおいが鼻をつく。 「朱、ちゃん」 「……うん」 二人して何とも言いがたい表情を浮かべていれば、襖の向こうから女中さんの声が聞こえてきた。 目覚めたことを告げれば、あれよあれよと言う間に着替えさせられ、「三成様の元へご案内いたします」と頭を下げられる。 「にかいめ」 そっと呟けば、紫ちゃんがあたしを見下ろした。 「二回目」 紫ちゃんも小さく呟き、二人でへらりと嗤う。疲れたような、……憑かれたような顔で。 あの時、あたし達はなんて自己紹介しただろうか。 思い出せない。思い出そうとも思えない。今のあたし達らしい自己紹介でも多分、良いんだろう。じゃなけりゃ、あんな記憶、遺すはずがない。 あんな夢を、見させるはずがない。 「今度こそ、官兵衛さんのために」 紫ちゃんが誰に言うでもなく口にして、ぎゅうと両手を握り締める。 その様を目を細めながら眺めて、俯いた。 「三成の、ため」 今度こそ、そう生きられるんだろうか。 女中さんに案内された先には、確かに三成と大谷さんがいた。どこをとっても変わらない、あたしの知っている二人の姿だ。 だけどこの二人は、あたしと紫ちゃんのことを知らない。知っているはずがない。 それは、あたしが好いた三成と大谷さんだと、言えるんだろうか。 「……やんなるなあ」 小さく、小さく呟いた。 訝しげな三成の視線が、一瞬だけあたしに向けられる。 拒絶しか浮かばないその瞳が、肺の辺りを苦しくさせた。あたしを「朱」と最期に呼んでくれたあの人は、ここにはいない。 ねえ、紫ちゃん。 もしかしたら、……もしかしたら、だよ。可能性の話なんだけどさ。 あたし達には……幸せになるための道なんて、無いのかもしれないね。 |