歩んだ先の [106/118]


死亡表現有


結果から言えば、生き残ったのは毛利だった。

兵達も手を出せない戦いは結構な時間続いて、今にも動きそうな身体を必死に諫めて、唇を噛み締めながらあたしはそれを見守ってた。
毛利がどんな怪我を負っても、どんなに死にかけても、手を出すなと言われてしまった以上もう手は出せない。さすがにとどめを刺される瞬間とかが来たら動かまいと思ったって動いちゃうだろうとは思ったけど、ありがたいと言えば良いのか、そんな瞬間は毛利には来なかった。

あたしは、アニキが死んでいくところをじっと見つめていた。


毛利が生き残ったとは言え、毛利の身体もぼろぼろだ。いつ死んでもおかしくないくらい傷だらけな身体は気力だけで保っていたらしく、長曾我部さんが息絶えたのとほぼ同時に、毛利も倒れた。
一斉に毛利軍の兵たちが駆け寄る中、あたしもゆっくりと毛利の元へ歩きだす。
兜もどっかに飛んでっちゃって、傷だらけな毛利の傍らに両膝をついて、溜息だけを漏らした。何とも言えない瞳があたしを見上げていた。

「……朱、貴様に一つ、言わねばならぬ事がある」
「何ですか、遺言なら聞きませんよ」

違う、と弱々しい力で右膝を叩かれる。その力の弱さがつらい。

「朱が死んでいようが、生きていようが、……我は貴様を片時も忘れはせぬ」
「、――」

どう答えようか考えあぐねて……とりあえず毛利の額に軽くデコピンをしてやった。
痛みで一瞬両眼を閉じた毛利に、笑う。
今は、この人が生きていて良かったと思うことにしよう。

「ありがとうございます、毛利さん」


――…


毛利はもうロクに動ける状態じゃなかったなかったので、彼のことは毛利軍の兵に任し、あたしと石田軍兵士たちは先へと進むことにした。
最後まで毛利は、言葉を選ばないなら"駄々をこねていた"けれど、傷で身体が動かないんだからどうしようもない。

「じゃあまた、どこかで」

いつからか癖になった別れ文句を口にして、毛利に手を振る。
怪我をするなとも、生きて戻ってこいとも、何も毛利は言わなかった。ただ無言で、あたしをじっと見つめていた。

なんだかその瞳は、あたしが紫ちゃんと別れた時に浮かべてたものと、同じように思えた。


長曾我部軍の陣を抜け、駆け足で道なりに進んでいく。
道中、徳川軍の兵がちらほらと現れるのを相手取りながら、既に息絶えている者が何人もいることに気が付いた。それらの全てが見覚えのある刀傷で死んでいる。

「どうやら三成様はこの道を通られたようですね」
「みたいだねえ」

さっき横道があったから、多分そっからこの道に入ったんだろう。
てことは、この先に三成がいる。長曾我部軍の陣は東軍本陣の手前辺りに位置していたはずだから、徳川軍も。

そのまま進んでいれば、また、機械音を耳が拾った。今度はあの重々しい感じじゃない、本当に機械のような……金属的な音。
察してしまった、この先にいるだろう敵の姿に、頬がひくつく。今んとこそこまででかい傷は負ってないけど……これはそろそろ、あたしも本当にやばいかもしんない。

金属音と共に、爆撃のような音や、びりびりとした音も聞こえてくる。そのなかに金属同士がぶつかるような音が聞こえて、あたしは歩調を速めた。
これは、この音は。この、気配は。

「そこを退け、本多!」
「……!!……!」

辿り着けば、そこには結構な傷を負った三成と、三成の道を阻む忠勝の姿があった。
やっぱり、と思いながら急いで加勢に入る。

三成はあたしの姿を一瞥し、小さく舌打ちを漏らしてから忠勝と一旦距離をとった。忠勝もあたしや兵士たちの姿を視認すると、体勢を立て直すためか数歩後退する。
キュイーン、と機械音が響く中、がしゃん、がしゃん、と忠勝が形態を変えるのを目にし、あたしはさあっと全身の血の気が引くのを感じた。
アッこれ見覚えあります、ゲームでのトラウマです。どうも重機形態ですねわかります本当にありがとうございました。六十人組手で何度これにキレたことか。

「貴様は背後に回れ」
「エッ、ハイ」

突然出された三成からの指示に、慌てて頷いて影の中に潜る。一応、気配も消しておく。
とにかく忠勝を足止めして、三成を先に行かせなきゃ。でもあたしが忠勝の足止めとか出来るんだろうか。今まで忠勝と対峙しててあの怪我の量で済んでる三成凄いと思う。
……つーか三成怪我してんじゃん……。

自分に呆れつつ、影から抜け出て忠勝の無防備な背に仕込み刀を向ける。忠勝は三成と兵たちの攻撃をガードするのに必死で、こっちまで手は回らないようだ。
効いてんだか効いてないんだかわからない攻撃を続けていれば、不意に忠勝が槍を地面に突き立てた。槍の先っぽは、天へと向いている。
また、全身の血の気が失せた。

「下がって!」

バックステップで距離を取りながら叫ぶ。三成たちも何が来るか解ってたんだろう、言われるまでもなく距離をとっていた。下がって!とか言ったの恥ずかしい。

槍の先へと集まった雷電が忠勝を包み、離れていても全身がびりびりしている気がする。静電気でバチッとなるのが、剥き身の肌を刺している感じというか。
そのせいなのか髪の毛が頬にひっつくのを鬱陶しく思いながら、忠勝が動き出すよりも早く三成の元へ走った。

「ここはあたしが請け負います、三成様は先へ」
「……貴様一人で、本多の相手が出来るとでも思うのか?」
「……、」

それにイエスとは言えないなあ。思わず口ごもる。
が、三成のその問いに答えたのは、あたしに着いてきてくれていた兵士だった。

「朱様一人ではございません、三成様!私も朱様の御力となります!」
「……」

今度は三成が沈黙する。そうして、動き始めた忠勝を横目に、刀を鞘へと納めた。

「貴様達は秀吉様の兵だ。死ぬことは許可しない」
「はっ!!」
「我らは三成様のお供をさせていただきます!」
「好きにしろ」

そんなこんなで、あたしと一緒にいてくれてた兵は十人ほどだったのだけど、内六人程が三成と共に、残った三人があたしと一緒に忠勝の相手をすることになった。
四対一でも、忠勝相手となると心許ないなあ……。いわゆる名前つき武将ポジがあたしだしな。

でもま、やるしかない。

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