喰らい尽くして [98/118]


「Ha!まさかこんなとこでアンタと再会するとはな。Luck out!」
「私は会いたくありませんでしたけど」

つれねえな、と伊達はから笑う。
らっくあうととやらの意味はわかんないけど、大方「ツイてるぜ!」くらいのノリだろう。そして多分、それは全然思ってもない言葉だ。

「噂には聞いていたが……菫、てめえが石田の軍から黒田と共に抜けたとか言う女だったのか」

その言葉にはただにこりとだけ笑っておく。

伊達と楽しくお話しているような時間は、私には無い。きっともう官兵衛さんがそこまで来ている。
本陣にいるだろう家康や奥の方で陣を張っている長曾我部を除けば、ここにいる伊達が今は最大級の壁だ。官兵衛さんが進む道の、障害だ。
私はそれを取り除くためだけに、ここにいる。

小十郎さんがここにいないのは、恐らく少し離れた陣にいるからなんだろう。そこら辺がゲーム通りだとするのなら、小十郎さんが合流するのも時間の問題に思える。小十郎さんと伊達の二人を相手取るのだけは避けたい。
それにこれまでの道のりで浮毒や強心毒を少しばかり使いすぎた。出来ることなら、消耗は抑えたい。伊達相手にそんな余裕を持てるかはわからないけれど。

なるべく早く、効率的に、終わらせなきゃ。


何を言うでもなく、未だぺらぺらとお喋りを続ける伊達に向かって簪の刀を向けた。
上から下へ、袈裟懸けに。
だけど伊達はひょいと余裕そうにそれを避け、ヒュウ、と口笛まで吹いてくれた。本当に余裕みたいだ、腹立つ。

「OK,OK……どうやら本気らしいな」
「……」
「俺としては南蛮語を解する女なんて珍しいモン、手元に置いておきたかったんだが……It's inevitable」

ひょいひょいと軽く私の攻撃を避けながら、伊達は諦めたように肩をすくめる。
そうして、刀を一本、抜いた。

「いいぜ、相手してやるよ」

それは明らかな格上が見せる、慈悲にも似た挑発だった。


――…


事実、伊達は私より遙かに格上だった。
さすが主人公張ってるだけあるわ、なんて心の片隅で考える。浮毒が無ければ手も足も出なかっただろう。

じわりじわりと毒の効いている身体でも、伊達は機敏な動きで私を追いつめていく。
それなりのダメージは与えられているだろう。だけどその代わり、私の身体にもかなりの切り傷が与えられていく。……天海様に刺されたお腹の傷が痛んで、上手く避けることが出来ない。

「――っ政宗様!!」
「……Hey,遅かったじゃねえか、小十郎」

あれだけ動いてたんだ、毒がだいぶ回って来たんだろう。片膝をついた伊達と、出血でふらつく私との緊張を裂くように、小十郎さんの声が響いた。

……ああ、伊達主従が揃ってしまった。

伊達と対峙する私の姿に、小十郎さんの目が僅かに見開かれる。けれどすぐにその目はきつく細められて、ほんの少し身が竦んだ。
怖いな、小十郎さん。主がこれだけぼろぼろにされてんだから、当然だけどさ。

私へと刀を構えた小十郎さん、体勢を立て直した伊達。
そんな二人に見据えられながら、出血の酷い箇所に布を巻き付ける。気休めだけど、そうするしかない。
もし、ここで私の道が終わるとしても、官兵衛さんの道だけは途絶えさせちゃいけないんだ。

「……やるしかない」

深く息を吸い込んでから、周囲の靄を体内へと溶かしていく。
二人が動き出すと同時にゆっくりと瞬きをして、掌の中の刀を握り締めた。辺りを渦巻く薄紫が消えて、景色が鮮明に見える。

強心毒。
既に何度か使ったから、五分はもたないかもしれない。でも、例え三分でも、一分でも、ほんの僅かな時間、私が彼らより強くなれればそれでいい。
彼らの道を終わらせられるのなら、官兵衛さんの道を開けるのなら。


正面から向かってくる二人の間をすり抜け、背後に回る。伊達には蹴りを入れ、小十郎さんは背中を斬りつけた。
強心毒によって強化された私の動きが追えなかったのか、二人は瞠目しながら私へと向き直る。伊達はともかく、小十郎さんの傷は浅くない。
二人のこめかみに汗が滲むのが、いやにはっきりと見えた。

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