辿り着くは黄泉の淵 [96/118]


ゲームで言うスタート地点辺りで再び湧いた援軍という名の敵兵たちを殲滅しながら、西軍本隊の到着を待つ。
影人形から様子を窺う限り、毛利軍、真田軍辺りはもう少し遅くなるだろう。こう言っちゃ悪いが、そこら辺は今はどうでもいい。

黒田軍はあたしが此処に辿り着いたと同じ頃に到着し、進軍を開始していて、身を隠していたあたしに気が付くことなく先へと進んでいった。
あまりにも少なすぎる東軍の兵に、やや不審がりながら。
恐らくその先で見つけるだろう鶴姫と孫市の死体に、疑念は確信となるはずだ。官兵衛はああ見えて頭が良いから。

敵兵の大半を倒し終えたところで、石田軍が到着したことを察する。
影人形越しに大谷さんから名前を呼ばれ、最後に正面から刀を振り上げてきた敵兵を刺し殺してから、影送りで石田軍の元へと向かった。


――…


「お疲れ様です」
「朱か。状況はどうであった?」

前置きもなく影から現れたあたしに驚くこともなく、大谷さんは報告をするよう促してくる。
そのすぐ隣には今にも走り出しそうな気配を見せる三成の姿があって、それを横目に見てから口を開いた。

「小早川軍は西軍を裏切り、東軍へとつきました。他の東軍に属する軍は全て、既に陣を張ってます。長曾我部軍、伊予河野軍も同様に。現状だと……だいたい三分の一くらいが敵陣っすね、多分」
「さようか。して、金吾はどうした」
「東軍に寝返った以上は敵だと判断したので殺しましたけど」

ならば良い、と軽く頭を撫でられる。これは褒められているんだろうか。
人を殺して褒められる、ってのも変な話だ。

「海神の巫女と長曾我部はどうした」

怒りを滲ませながらの声音は、三成からのもので。
やっぱり一度西軍に属しておきながら、東軍へと移っていった彼らのことが許せないんだろう。その瞳にはありありと……憎しみが浮かんでいる。

「鶴姫は交戦となったので、その際に。長曾我部軍はやや奥の方で陣を張っているようです、恐らく東軍本陣の手前辺りですかね」

ついでに孫市も倒したことを告げれば、もういいとでも言う風に三成はあたしに背を向けた。

……しかしあたし、先に戦場に入って偵察……以外の事もしたけど……してきたのを報告するって、ますます忍度上がってやしないだろうか。
なんかもう今更だしどうでもいいけど。

「刑部、私は先に行くぞ」
「まあ待て三成、そう急くな。物事には順序というものがある」
「……」

どういう意味だと、視線で三成が大谷さんに訴える。
その視線を受けた大谷さんは、あたしへと顔を向けてきた。

「朱、ぬしはわれらにひとつ、隠し事をしておるな?」
「……大谷さんに隠し事は出来ませんねえ」

肩をすくめ、別にもうここまできた以上隠す必要も無いことなので、大人しく口を割ることにした。

「今頃、黒田軍は交戦中っすよ。今は東軍相手だけど、西軍が参戦すればあたしらも敵と見なすでしょうね」
「ッ、……」

大谷さんはやっぱりといった表情でゆるく頷き、三成は目を見開いて息を呑む。
三成の表情の理由なんてすぐに察せた。黒田軍がいるということは、そこに紫ちゃんもいるということになる。

ついさっきまで憎しみ一色だった瞳に、僅かな悲哀が見て取れて、なんだか笑えてしまった。なるべく、表情には出さないよう努めたけれど。

「暗が敵を減らせば減らすだけわれらに利がある。此処は暫し待ち、漁夫の利を狙うとしよ」
「家康も、官兵衛も、あの女も!!殺すのは私だッ!!!」
「わかっておる。奴らが打ち合い、消耗したところを狙えば軍の損害も減らせようという話よ」

喚く三成と、宥める大谷さんとの言い合いをしばし眺める。

紫ちゃんと官兵衛は合流しただろうか。あれから結構な時間が経った。
上手く進んでいれば、アニキの陣辺りには辿り着いてても良い頃合いなはずだ。


三成と大谷さんから視線を外し、影人形に触れようとする。
瞬間、今まで感じていた嫌な予感の、正体を知った。

×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -