異端の男 [8/118]


「紫です」と襖の前で告げれば、「入れ」と三成の声が聞こえてくる。
はあやだなあ、何の用だろう。官兵衛さんとこ行ってこいとか金吾さんのとこ行ってこいって用事だったらバッチこーい!なんだけど。
そう思いつつ開けた襖の向こうには、刑部と、見知らぬ二人の男性がいた。
……誰だあれ。

「朱はどうした?」
「ああ、お膳を返しに……台所?に行ってます。すぐ来ると思いますけど」
「左様か、今日の朝餉は朱が作ったらしいなァ」
「え、刑部さんも食べたんですか」

ちょっと驚きつつ、適当な場所に腰を下ろす。
刑部はヒヒッといつも通りの笑い声をあげながら、「ついさっき食べ終えたばかりよ」と入口の方にのけてあったお膳を指さした。
二人分ある、ってことは三成も食べたのか。二人とも完食はしてないみたいだし、他にもお皿とか見えるから朱ちゃんが作ったのだけじゃなかったぽいけど。
でも半分以上減ってるって事は美味しかったのかな、人の作ったご飯って美味しいもんなー。

「早に来れば、美味かったと褒めてやろうと思っていたのだが」
「朱ちゃん、お茶もらいに行っちゃったんで……」
「……あれは女中の真似事でも覚えたのか」

不意に三成が口を開いたから、びっくりした。
「そう言ってやるな三成」と刑部が返すのを目を丸くしたままの状態で聞きながら、ふと視線を感じて顔を横に向ける。
見知らぬ男性達が、多分、私を見つめていた。
見つめていたっていうより、眺めていたって言った方が正しいかもしれないけど。

この人は誰ですか、なんて訊く気にもなれなくて、早く朱ちゃん来ないかなあとこの室内に居づらさを感じる。
正座にしていた足が少し痺れてきた辺りで、やっと襖の向こうから「遅くなってすみません、朱です」と声が聞こえてきた。
「入りやれ」と、今度は刑部が答えた。

「お客さんが来てるって聞いたんでお茶と茶菓子、六人分持ってきたんすけど……あ、ちょうどぴったりか。良かった」

朱ちゃんはとんとんと全員の前に、湯気を立てている湯飲みと小さなまんじゅうの載った小皿を置き、私の向かいに腰を下ろした。
三成の隣に私、刑部の隣に朱ちゃん、そして三成と刑部側のいわゆるお誕生日席的な位置に、見知らぬ男性達が座っている。
「揃ったようなので、」と藍色の髪の男性が口を開いた。イケボなのだけど、やたらと眠そうな雰囲気の声だった。

「石田殿と大谷殿はご存知でしょうが、改めて。俺は望、婆娑羅屋の店主を務めています。隣は副店主の有也です。今回はそこのお二人……朱殿と紫殿の装束と武器を作るよう依頼を受けたので、この場へと参った次第です」
「こ、え、ばしゃ……っ、……」

向かいからぼそりと「噛んだ……」という呟きが聞こえて、思わず吹き出しそうになる。
刑部に至っては既に笑っていた。
朱ちゃんはゴホン!とわざとらしい咳をして、望と名乗った男の人へ視線を向ける。

「あなた方が、婆娑羅屋さん……なんですか」
「はい」

もっとお爺さんみたいなの想像してたなあ、と望さんと有也さんを眺める。
望さんはちょっと天パでふわふわとした黒髪に、藍色の眠そうな目。
有也さんは外に跳ねた赤髪に、くすんだ赤色の目。目つきはあまり良くない感じだ。
二人ともイケメンの部類で、年は……私や朱ちゃんと同じくらいだろうか。

にしても武器と装束を作るって、どうやって作るんだろう。
ここでなんとなくの感じを決めてから、後日持ってくるのかな。いやでもバサラ世界って何でもありだからこの場でぱぱっと作っちゃいそうな気もする。
筆頭の六爪とか毛利の輪刀みたいな、こんなん使えるかー!ってのだけはやめて欲しいな。本人の希望とかは聞いて貰えるんだろうか。

「にしても……」

有也さんが、じろりと私と朱ちゃんを眺める。

「このお二人さん、自分の戦い方も知らぬようですが」
「そうよなァ、ロクに戦に出た事も無いゆえ」
「左様で」

刑部の言葉に頷き、また、朱ちゃんをじろりと見つめる。
品定めされてるみたいで居心地が悪いのか、朱ちゃんは少し顔を顰めて有也さんから目を逸らした。
直後に今度は望さんの視線が私に向き、また、じっと見つめてくる。

「お二人とも闇属性、と。特に紫殿は変わった属性をお持ちのようですね。石田殿、刑部殿、彼女は重宝した方がよいですよ」
「……元よりそのつもりだ」

えっ困る。寝てていいならそれはそれでいいけど。
つーか変わった属性、とは。

「まあ大体のイメージは掴めましたかねえ。一晩どこぞの部屋を貸してくだされば明日にはできあがりますよ」

イメージっつったこの人。イメージっつったよこの人。
「!?」って顔で私と朱ちゃんが顔を合わせて、望さんへ同時に視線を向ける。
望さんはにっこりと、無理矢理作ったみたいな笑みを浮かべていた。

何なのこの人。ていうか明日には出来るのか!早いな!!

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