せかい   



その後は、フランと2人、手を繋いでヴァリアー邸まで帰った。

あたしが記憶を取り戻したっていう話をどこかから聞いてきたのかみんながフランの部屋に来て、リア姉さんも、スクアーロさんも、ベルさんも喜んでくれて、でもスクアーロさんとベルさんはすぐにフランの部屋から閉め出されたんだけど。
ちょっとだけでも部屋に入れてあげたのはフランなりの優しさなのかな、とか。まあ入れてあげたっていうか無理矢理入ってきたんだけど。


みんな元気そうで良かった。
みんな喜んでくれて、嬉しかった。

あとザンザスさんにも、改めてここにいさせてもらうことと、最初医務室まで運んでくれたのはザンザスさんらしいということを聞いてたのでそのお礼を言いに行った。
すごく、怖かった。
怖かったけど、やっぱりただ怖いだけの人じゃないんだな、って思ってちょっと笑ってたら灰皿を投げ飛ばされた。
それはまあ、フランのカエル頭に直撃したからあたしは無事だったんだけど。


記憶の無い間に顔見知りでも何人かできたのか、他の隊士の人たちにも声をかけられたりした。
全員がフランに吹っ飛ばされちゃったんだけど、お礼はなんとか言えたのでセーフだと思いたい。

またフラン隊長の病気が始まんのかーって声が聞こえたのは、気のせいだ、きっと。


「美遊みたいに普通な子がいるのはここじゃ珍しいですからねー、記憶のない美遊はなにか思い出す手がかりはないかって中をうろちょろしてたらしいですし、おかげで余計な虫が増えましたよー」ってフランはぷりぷり怒っていた。

記憶のないあたしも、大変だったんだと思う。
リア姉さんに聞いた話だと、フランは最初記憶のないあたしを受け入れられなくて冷たい態度を取っていたらしいし。
少し哀しいけど、きっとあたしがフラン側だったとしてもそうなったと思う。
好きな人が、自分のことを忘れてしまうのはきっと、すごく哀しい。もちろん、忘れてしまうこともだけど。

だからフランにも、記憶のないあたしにも、申し訳ないことをしたなあと思う。
かといって、記憶のないあたしに謝るとか出来ないし、どうすることもできない。

せめてあたしとフランがずっと、幸せでいることが、あの子のためにできることだと思う。

そして、フランのために出来ることも、あたしがずっとフランのそばにいることくらい。


――…


「ミルフィオーレのせいでどんどん仕事増えていきますよー、ミーもう過労死しちゃいますー」
「あたしはお菓子作って待っとくことしかできないけど、まあそのなんだ、がんばれフラン」
「…美遊がちゅーしてくれたら頑張れますー」
「いやそれはちょっと」
「何でですかー!」

フランは相変わらずスキンシップが激しい。というかスキンシップなのかこれ。まあいいけど。
やられるのはいいけど、いや良くはないけど、とにかく自分からするのは恥ずかしい。

まあまあ、なんて宥めながらぽすんとフランの頭を撫でてみれば、目を細めてそれを嬉しそうに受け入れるんだから、本当にフランは可愛いなあと思う。

「ま、ミルフィオーレにはでっかい貸しがありますからねー…じわじわと復讐してやりますよー」
「…お、おお…頑張れ…」
「つってる間にもう次の任務の時間だしよーやってらんないですよねー。はあ…じゃあ美遊、いってきますー」

立ち上がるフランの腕をひき、ちゅ、とほっぺに唇を落とす。

「いってらっしゃい、フラン」
「唇だったら合格点だったんですけどー」

そう言いながらフランはあたしに口づけて、にやりと笑った。
結局フランからするんだからなにも変わらないじゃんと思いつつ、とりあえず笑って流すことにする。

「帰ってきたらご褒美くださいねー」
「あたしが寝てなかったらねー」
「寝てても起こすから問題ないですー」
「いやそこはフランも寝なよ」

名残惜しそうに部屋のドアから手を振るフランに苦笑しながら手を振り替えして、ばたんと閉まったドアをぼんやり見つめる。


ここがあたしの日常。
ここが、あたしのいる世界。
フランといる、幸せな世界。

あたしが、生きていく世界だ。

溺愛死 20120618 end. 



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