さいおう   



ぼんやりと、またフランさんの背中を眺めながら歩き続ける。
ふと視線を下にずらせば、しっかりと繋がれた手。
まだ、隣を歩けはしないけど。わたしでいる内はきっと、隣に並ぶことはできないんだろうけど。

この繋がれた手が、フランさんがわたしに歩み寄ってくれた証なのだと思うと、笑みがこぼれた。

嬉しい。嬉しい。
わたしは、まだわたしでいていいんだと。

「なにか見たいとこありますー?」
「特には…、」
「どうかしましたー?」

はたと、立ち止まったわたしの視線の先には、高そうなジュエリーショップ。
ショーウィンドウにはわたしなんかじゃ手の届かない値段だろう綺麗なネックレスや指輪なんかが、たくさん並んでいた。

繋がれた手に、ちらりと目線を落とす。
エメラルドグリーンの石がついた高そうな指輪。多分、フランさんにもらった、もの。

「――いえ、なんでも無いです。行きましょう、フランさん」
「…なら、いいんですけどー」

ただなんとなく、本当になんとなくあの店が気になっただけ。

ルッスーリアさん曰くわたしが外に出たことがあるのは、1度だけらしい。
だから今日が、2回目。

もしかしたらあの店で買ったものだったりして、なんて、ちょっぴり考えて少し笑った。

「なに笑ってんですかー」
「え、いや…ちょっと。気にしないでください」

くるりと歩きながら振り向いて、怪訝そうな表情を浮かべるフランさん。
本当になんでもないんです、と苦笑気味に返せば、フランさんはなんとも言えない表情を見せた後、小さく笑いながら呟いた。

「にやにやしながら、転けないでくださいよー」
「に、にやにやなんて…って、フランさん後ろっ…」

段差がある、って、伝えようとしたんだけど。

「う、わー?」

ガクン、段差に躓いてそのまま転けそうになるフランさん。
慌てて繋がれている手に力をこめて、あいている反対の手をフランさんの方に伸ばす。
その手はフランさんの腰を支えることに成功、して。

「…っだ、大丈夫、ですか…」
「あ、はい…ありがとうございますー…」

な、なんだろうこの格好。
転けそうなフランさんを助けようと必死だっただけ、なんだけど、なんというか…これは…。

「逆…じゃ…」

ごくごく小さな声で呟いたそれはただの独り言だったのだけど、フランさんには聞こえてしまったみたいで。

「美遊は、美遊が転んでミーが助ける方が好きなんですかー?」
「えっや…好きとかいうわけではなくて…」
「まあでも美遊は変なトコで男らしいですからねー、なんならミーが受でもいいんですけどー」
「そ、そんなこと言いませんし何もしませんよ!」

慌ててフランさんから手を離し、ぶんぶんと顔の前で手を振る。
そんなわたしを見て、一瞬、本当に一瞬だけ、フランさんは懐かしそうに目を細めた。

「、フランさん?」
「…美遊は変わんないですねー」
「え?」
「何でもありませんー。さ、行きましょ行きましょー」

また、フランさんはわたしの手を引き、緩やかな坂を上っていく。


聞こえていた。さっきの言葉。
「美遊は変わらない」、そう言っていた。
覚えていないわたしにはわからないけど、全てを覚えているフランさんにはわかるんだろう。

似たような会話、似たような行動、きっとそんなことをいくつも繰り返していることに。
だって記憶を失っていてもわたしが美遊であることに違いは無いんだ。物の感じ方や意図しない言動が似るのは、当然のことだと思う。

それをフランさんは、どう思っているんだろう。


緩やかな坂を上りきった場所は、海の見渡せる小さな公園になっていた。


再往
(同じなのに違う人と同じ事を繰り返してる)


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