であう   




友だちに誕生日プレゼントで、ペンダントトップがリングの、綺麗なペンダントを貰った。
そもそもの始まりは、これだった。

その日の夜、突然光りだしたリングの光に包まれて、あたしは意識を失った。


――…


「…どこだ、ここ」

あたしはただ呆然と周りを見渡して、ぽつりと口から言葉を漏らした。
見たことはあるかもしれないけど(例えばテレビとかで)決して入ったことなんか無いような、豪華な部屋。とはいっても、ほとんど物が置かれてなくてシンプルなものなんだけど。
テレビ、ソファー、テーブル、ベッド。見た感じあるのはこれだけ。多分あのドアの向こうにはトイレとかシャワールームとかあるんじゃないかな。

へたりと床に座り込んだままのあたしは、立ち上がってそのドアを開こうとした。
すると、もうひとつ別のドアが、いきなり開いた。

出て来たのは…カエル。

「わ!」
「…え、誰ですかー」

カエルに目を奪われて一瞬反応が遅れた、けど、あの緑色の髪に服装、この喋り方は間違いない。
どうやらあたしは、トリップをしてしまったみたいだ。

訝しげな表情を向けてくるカエル、もといフランを見て、あたしは急いで舌を回した。

「あたし、幸矢美遊っていいます!」
「はあ…美遊ですかー。で、何で美遊はここにいるんですかー?ここ、ミーの部屋なんですけどー」
「そ、れは…」

こっちが聞きたいですー、なんて心の中でフランの真似をしながら答えてみた。いや、口に出すつもりはない。
てか名前呼ばれたよ…!うわあ興奮する。
フランに美遊、って呼び捨てされちゃったようれしい!

「さっさと答えてくれませんかー」
「うわっ?!」

気付いたらフランが目の前にいて、あたしに小さなナイフを向けていた。
…あれ、それベルのナイフじゃね?

あたしは首にかけられたペンダントを手にかけてフランに見えるように持ち上げた。
フランが興味深そうに首を傾げる。くそう可愛いなあフラン…。
どう説明しようか、と考えていたら、フランはそのペンダントトップのリングを手にした。
うひゃあああ、顔が近い!

「これ、霧属性のリングじゃないですかー」
「…、え?」
「まさか、知らずに持ってるなんて言いませんよねー?」
「あ、いや、知らないですスミマセン」
「ハア…馬鹿なんですねー」
「…否定は出来ませんが」
「今のはするところですよー」

なんかフラン…、思ったよりフレンドリーな気がする。
あたしのペンダントをくるくると手の上で転がしながら、フランはぐっと私に顔を近づけてきた…って、ぶつかりますよ!?
鼻と鼻がぶつかりそうなくらいの距離なんですけど…ちょ、息止めたい。
咄嗟に口元を押さえたら、何してんですかーって鼻で笑われた。泣きたくなった。

「で、どこから来たんですー?」
「えと…日本、から?」
「何故疑問系…。ミーはフランって言いますー」
「あ、はい」
「じゃあ、美遊は帰るところあるんですかー?」

あるにはある。けど、行けない。
だってほら、世界違うしね。

ふるふるとあたしが首を左右に振れば、フランがにやりと笑った気がした。
こ、怖い。
にこりと人当たりの良さそうな(でも腹になんか一物抱えてそうな妖しい)笑顔を浮かべたフランは、ペンダントから手を離して、私の右手を取った。
なにを…、

ちゅっ

「ぅえっ!?」
「決めましたー。美遊はミーの部屋に住んでくださいねー。ミーは怒りんボスに許可もらってきますからー」
「え、あ、ちょっと!」
「大人しく待ってるんですよー」

慌てるあたしを余所に、フランはすたすたと部屋から出て行ってしまった。
キスされた右手の甲が熱い。
やっぱイタリア人は違うわ…。

というか、

「怒りんボスって、言い方可愛いな」

これが、あたしとフランの出会い。


 (リングが見せるのは、幻覚か有幻覚か)


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