はんせい   




自己嫌悪。その一言に尽きる。


長期の任務はありがたかった。
記憶を失った美遊を見ないですむから。
ミーのことを知らない美遊を見ないですむから。

それでも滞りなく進んだ任務が終わったのは予定よりも少し早くて。
「早く美遊ちゃんに会えるなら嬉しいわあ!」と呑気にはしゃぐルッス先輩が少し、…ほんの少しだけ、羨ましく思えた。

ミーには、ミーを知らない美遊と話をする勇気がない。顔を見る勇気がない。瞳を見つめる勇気がない。触れる勇気なんか、あるわけがない。
会いたくないわけじゃない、のに。
理由は、わかっていた。

(ミーが恐がってる、なんて、らしくなさすぎですー)

そう、恐いんだ。
傷つくのも…傷つけるのも。



そして案の定、ミーは、美遊を傷付けた。


――…


「てめーいい加減にしろよドクソガエル」

いつものごとく勝手に部屋に入ってきた堕王子の第一声はそれで。
その言葉はさっきのことを指しているのか、ふと考えてそういえばなんとなく気配を感じたような気がした。
どうでもいいですけどー。

「…今、堕王子の相手できるような気分じゃないんでー、帰ってもらっていいですかー」
「俺だって用なきゃてめーの相手なんざしたくねーよバーカ」
「…、」

はあぁ、深くため息を吐けば、ナイフがぐさぐさっと背中に刺さった。痛い。涙は出ない。

「美遊もカワイソーになー。せっかく帰ってきたのに放置されるわ迎えに行ったら無視られるわ」
「…あの子は、ミーのこと知らないでしょー」
「あ゙ァ?もっぺん言ってみろよクソガエル。調子乗ってっとほんと殺すぞ」
「誰がいつどこで何時何分何十秒に調子乗ったって言うんですかー。もうほんと疲れるんで帰ってくださいよー、てゆーか帰れ」
「てめぇ…、っ、殺す!」

かすかに聞こえた声。

――美遊が何考えてると思ってんだよ、

頭に、血が上った。

「ッそんなに気になるなら、アンタが美遊に付き合ってやればいいじゃないですかー…っ!」
「てんめっ!」

いい加減にしろ!

怒号と共にナイフの雨が降り注ぐ。
軽く避け、幻術の炎の柱を何本も出して部屋の床を崩して。
それでもクソムカつく堕王子は、的確にミーへとナイフを投げ続けていて、ワイヤーも使って来やがった。

「いい加減に現実見ろよクソガキ!記憶あろうが無かろうがあれは美遊だろが!てめーが傍にいてやんなくて誰がいるんだよ!」
「そんなん知ったこっちゃねーよ堕王子がいてやればいいじゃないですか!」
「ってめえじゃなきゃダメなんだよ!」
「、!?」

被害が部屋の外までに至ろうとしたときにバァン!と派手な音を立てて部屋のドアを開けたのは、ルッス先輩だった。
そして、その背後には。

「フランさん、ベルさん…?」

心配そうに眉を寄せる、美遊が。
ただじっと、ミーだけを、その瞳に映していた。

「もうなにやってんのよ!こんなときに2人が喧嘩なんて!」
「このクソガエルがわりーんだよ」
「……、」

何も言う気になれない。
そんなミーをただただ、美遊が見ている。両手をぎゅうと握りしめて。
左手の薬指にある指輪を、大事そうに、守るように。

気付いたらふらふらと、何かに引っ張られるように美遊へと歩み寄っていた。


「…ごめん、ごめんなさい、ですー…」

ゆっくりと、そのまっすぐな瞳とミーの目を、合わせる。

「、…美遊」
「ー!」

びっくりしたのか目をいっぱいに見開いて、そして、目を覚ましてから初めて、本当に嬉しそうな満面の笑顔を、ミーに見せてくれた。


反省
(はじめて、わたし、を見てくれた)


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