るいえん   



目の前にいる、エメラルドグリーンの髪が綺麗な、可愛い顔をした男の子。
漫画に出てきそうな、綺麗な子。
わたしをとても哀しい瞳で見つめる、子。
わたしよりは年上かな。でも、同じくらいにも思える。

わたしはわたしがどうして此処にいるのか、わたしはわたしがどんな人だったのか、わたしは何処にいたのか。
それがわたしには分からないのに、彼はわたしを知っているみたいだった。

「美遊…そん、な、何で」

髪と同色の綺麗な瞳に映るのは、絶望の色。
わたしの頬に触れていた温かな手は、ゆっくりとベッドの上に落ちていった。

彼の名前を呼ばなきゃいけない気がする。
でも、わたしは貴方の名前を知らない。
…知っている気が、するのに、それがわたしには分からない。
思い出さなきゃいけない「何か」に、手が届かない。
歯痒くて、もどかしくて、苦しい。

「ごめん…なさい」
「…っ、」
「わたしの所為で貴方が苦しんでるなら、ごめんなさい。何も…わからない、けど、でも」

今、胸の中がとても温かいの。
涙が溢れそうなくらい、嬉しいんだ。
貴方の泣きそうな顔はすごく切ないけど、でも、そんな貴方の顔を見ることができて、とても幸せなんだよ。

よくわからない、わたしの中でもやもやと霧のように漂う、温かな想い。
それを泣きそうな彼に伝えれば、彼は泣き笑いのような表情で、わたしをそっと抱き締めた。
優しく、壊さないように。
その背に手を回そうとしたけれど、それをわたしがしてはいけない気がして、ぴくりと動いた手をぎゅうと握りしめた。

「美遊…辛かったですよね、恐くて、苦しかったっ、ですよねー…。ミーが守れなかったせいで、美遊に、大事な美遊に苦しい思い、させて、ごめんな…さ、」
「ち、がう」
「…、え…?」

涙声で、すんすんと鼻を啜りながらわたしに、美遊…に、謝る彼。
ぽろりと口から零れ出た言葉と同時に、涙が頬を伝う。
わたしにはわからない、胸の中の何かが、言葉を紡いだ。けれどそれ以降は続かなくて、ぽっかりと胸に穴が開いたような気分になる。

大切な何かを、失ってしまったような。

「…ミー、りんご、取ってきますー」
「あ、はい…」

服の袖でぐいっと目元を拭って、彼は部屋を出て行った。

腕に繋がれた点滴。
わたしを見て、涙を流していた、彼。
白い服の裾からは切り傷のようなものや、何かを刺したような痕が見えて。

わたしは何を失ったんだろう。
泣きそうな顔で笑う、エメラルドグリーンの彼の姿が、頭から離れない。

「…、?」

きらりと窓から入ってきた光に反射したのは、指にはめてある綺麗な指輪。
今まで、気づかなかった。
左手をあげて、光に透かすようにそれをじっと見つめる。

すると、ぽろぽろと涙が流れてきた。
それは拭っても拭っても止まらなくて、わたしは、どうしようもない罪悪感に苛まれて、涙はもっと溢れた。


涙淵
(これはとても、大切な物なんだ)


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