さいかい   



独立暗殺部隊ヴァリアー。
そのボスであるザンザスは、巨大な城のようなヴァリアー邸玄関前に停められた車から、ゆっくりと降りた。
ザンザスを降ろした車はそのまま走り去り、ザンザスは屋敷内へと向かう。が、そこではたと足を止めた。

「…こいつは…」

玄関の柱にもたれるように膝を折って座り、瞼をとじている少女。
その姿には見覚えがあった。
少しの間悩むように少女を見つめていたザンザスは、眉根を寄せて小さく溜息を吐く。

トン、とザンザスにしてはかなり優しく少女の肩を叩く。
けれど少女は目を覚まさない。
数回叩いていると、ぐらりと身体が揺れた。
倒れる前にその身体を片手で受け止めたザンザスは、少女の口元に耳を寄せる。

――呼吸はしている、脈もある。

この少女が死んではいけないのだ。
ザンザス本人に関係はないとはいえ、この少女はヴァリアーの幹部たちと関係がある。
もう一度溜息を吐いて、ザンザスは少女の体をそっと抱き上げた。

「…めんどくせぇ」

そして彼は、ヴァリアー邸の医務室へと足を進めた。


――…


「おいカス、後で医務室に行け」

つい今さっき任務から帰ってきてめんどくさい報告書を出しにわざわざボスさんの部屋まで来てやったミーを労る言葉は一つも無しに、ボスは一言そう告げた。
ミー怪我なんかしてませんけどー、と返せば、ギロリとあの厳つい顔で睨まれる。
適当に謝ってさっさと部屋を出て、仕方ない怒りんボスの命令だって肩を竦めて、滅多に入ったことのない医務室へと向かった。
医務室に何があるって言うんですかねー。


歩いていたら、ルッス先輩の部屋の前を通った。
中からふんわりと漂ってくる甘い匂いに、いつか食べたあのベリータルトを思い出す。

あれはいつだったっけ。
美遊が来て、いろいろあったなーなんて思い出せば、自然と口角が上がる。
今のミー、1人で笑ってて変な堕王子みたいだ。
…美遊はいつ帰ってくるのだろう。
もうこの世界にいるのだろうか、だとしたら既に白蘭の元で…?
ぷるぷると首を左右に振って、嫌な思考を止めた。

「はあ…」

美遊に逢いたい。
逢ったらいっぱいぎゅーってして、いっぱいキスして、そしてあのとき勝手に帰ったことを怒って、その後はいっぱいいっぱい、愛してるって伝えたい。
それがいつになるかは、わからないですけどー…。
自嘲の笑みを浮かべて、辿り着いた医務室のドアを開けた。

いくつもある病室を見ていって、とりあえず担当の隊員を捜してボスに行けって言われたことを伝えればいいだろう、何か知ってるだろーしと考える。
考えながら見ていた、ドアが少し開いた病室。
偶然視界に入った黒髪に、ぴたりと動きが止まった。心音すら止まった気がする。

「…は、は…そんな、まさか」

ミーの気のせい、いやでも、まさか、だってそんな、なんで。
見間違うわけがない。あの髪は、あの、横顔は。

病室の扉を、強く開いた。

「ー…っ美遊!!」

何処かの童話のヒロインみたいに、目を閉じて眠っている、美遊。
何で美遊が、それを、何で、ボスが。
わからないことだらけで思考がぐちゃぐちゃに混乱する。
ゆっくりと壊れ物に触れるように美遊の頬に手を滑らせれば、温かくて、確かに彼女は美遊で、生きて、ここに存在していた。

「美遊…っ」

ぽたり、美遊の頬が濡れていく。
生ぬるい雫がミーの手にも伝った。

美遊、美遊、美遊。
やっと逢えた。
やっと、また逢えた。

「帰ってくるのが、遅っ、すぎ…っです、よー…」

自分の声がすごい涙声で苦笑。でも零れる涙は止められなくて、声を押し殺して美遊がいる病室の中、ずっと泣き続けた。


再会
(おかえり、おかえり、ありがとう、帰ってきてくれて)


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