はなれる   



ぎりりとフランに掴まれた腕の骨が軋む。
怒っているのだろうフラン、の顔は険しくて、でもあたしをじぃと見ていたかと思えばすっと目線を上げて、白蘭を睨み付けていた。
くすくす、白蘭の笑い声が耳に届く。

「美遊はミーのなんで勝手にとられたら困るんですけどー」
「へぇ、君がフランくん?美遊チャンも隅に置けないねぇ」

梨紗が目を丸くして、あたしとフランを交互に見つめていた。
あたしはフランに、白蘭から引き離すように抱き締められ、身動きが取れなくなる。
フランと会話をしている白蘭が、言葉と言葉の合間に、唇だけを動かして呟いた。

――帰らないの?

ひくりと喉が鳴る。
そうだ、梨紗を元の世界に帰してあげなきゃいけない、梨紗はここにいちゃいけない。
ぐ、と手を強く握れば、腕を掴んだままのフランがそれに気付いてあたしの顔を覗き込んできた。
ぐらり、決意が揺らぐ。

だいたい、こっちに帰って来られる保証もないんだ。
白蘭のことだから、異世界の人間であるあたしの研究をしたいのは本当なんだろう。
それを考えれば、こっちに戻ってくることは多分、出来る。
でも帰ってきたところで、白蘭が本当に1ヶ月であたしを解放してくれるかどうかはわからない…。

「美遊、美遊!」
「ー、フラ…ン」
「美遊が元の世界に帰るなんて、ミー、許しませんよー」
「…けど、」
「離さないって、ずっと一緒にいるって決めたんですー」

そう言うフランの瞳は、真剣そのものだった。
…だから。

「フラン…だったら尚更だ、よ…」
「…え?」
「あたし、帰らなきゃ。梨紗と帰って、絶対フランのとこに戻ってくるから…。一緒に、ずっと一緒にいたいから、あたしは今は帰らなきゃいけない、んだよ」
「何っ、で…」

ありえない、とでも言いたげな表情のフランの手を、そっと握りしめた。

…ごめん。

小さい声で呟くあたしに、フランの瞳が揺れる。
泣きそうな声で、何で、何でとただ繰り返していた。
格好良く登場してくれたのに、それじゃ小さな子供みたいだよ、フラン。

「ここまで来てくれてありがとう、ごめんね…フラン」
「美遊…っ」
「絶対、戻ってくるから。フランの隣に」

溺れ死んでしまいそうなほどに愛しい君の、隣に。
きっと、ううん…絶対。


「 バイバイ 」



そっとフランにキスをした直後、あたしと梨紗の姿は…霧のように消えた。


 (この怒りを、哀しみを、ミーはどうすればいい)


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