ながす   




何が、起きたのかなんて、理解できなかった。

「ス、クアーロっ!」

あたしの声はスクアーロには届かなくて、ただただ、悔しくて哀しくて。

だってまさか、真六弔花が出てくるなんて、思わないじゃない。
それも、桔梗と、トリカブトと、ブルーベル。3人も。
呼び出されたヴァリアーの平隊員が何人も死んで、彼らは、あたしを連れて行こうとして、スクアーロがあたしの前に立ってくれたのに、…今は横たわってしまっている。


全部…あたしの、せい?


「っや、やだ…っスクアーロ、死なないでっ…!」
「大丈夫ですよ、美遊様。殺してはいません」

パニックに陥っているあたしを抱える桔梗の声が頭上から聞こえる。
離して、と叫ぶ度に強くなる力。
どんなに身を捩っても抜け出せなくて、どんなに呼んでもスクアーロは血を流したまま…起きてくれなくて。
ごめん、ごめんなさいスクアーロ、あたしがスクアーロを頼ったから、だってスクアーロがこんな怪我をしてしまう未来なんてないのに、あたしがいたから、あたしがここに来たから、変わってしまった。
未来が、変わってしまった。

情けなくて悔しくて、何も出来ない自分に苛立って、涙がぽろぽろ流れた。
離してと、もう一度叫ぶ。
スクアーロの名前を呼んで、でも、最後に頼れるのが、フランしかいなくて。
あたしはフランの名前を呼んだ。

その直後、首の後ろに衝撃を感じて、あたしの意識は途切れた。


――…


誰かの気配がして、あたしはそっと目を開けた。
まだ、首の後ろが少し痛い…。

「あ、起きた?美遊チャン」
「ーっ!」
「ごめんごめん、驚かせちゃったかな?手荒な真似してごめんね。でも、美遊チャンにはどうしてもここに来て欲しかったから」
「…白、蘭…」

あたしは白いベッドに寝かされていた。
ドアがひとつあるだけの、箱のような真っ白の部屋に、ベッドと小さなテーブル、椅子。そのどれもが真っ白だ。
にこにこと笑いながら、白蘭はベッドの隣にある椅子に腰がけていた。
あたしが白蘭の名前を呼んだことに、白蘭の笑みが深まる。

「やっぱりキミも僕のこと知ってるんだ」
「キミ…も?」
「ああ、まだ紹介してなかったね。ちょっと待っててー」

楽しそうに部屋から出て行った白蘭を目で追ってから、こてん、と首を傾げた。
キミも、ってどういうこと?
白蘭は、あたしがこの世界の人間じゃないことを知っている?…から、あたしの存在を知っていて、あたしをここに連れてきた?
そのあたしを指して「キミも」って言うことは…ここに、あたしと同じ人がいる、ってこと…?
そんな、誰が。

バタンと開いたドアに、顔を上げる。
そこであたしは、これ以上ないくらいに丸く目を見開いた。

「お待たせー美遊チャン、梨紗チャンだよ」
「…美遊!」
「何、で…梨紗が…!?」

白蘭に手を引かれている、真っ白なワンピースにホワイトスペルの隊服を羽織った女の子が…私の、友だちだったから。


 (そういえば、このペンダントをくれたのは…梨紗だった)


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