あゆむ   



そのまま、美遊が泣き止むまでベンチに座って海をぼーっと眺めていた。
まさか美遊がミーの薬指にキスしてくるなんて考えてもなかったミーは、あの後思った以上に赤面、してしまって。
すごい勢いで美遊の頭を押さえたら、痛いとお腹を殴られた。鳩尾にクリティカルヒットですよー…。
結局2人して涙目って、ミー達どこのバカですか…。

「あー…リア姉さんにしてもらったメイク取れちゃった」
「そりゃあれだけ泣けばとれますよー」
「うんまあ…すごく、嬉しかったから。本当にありがとうフラン」
「…なんか美遊が素直すぎるとかえって怖いですねー」
「あはは怒るよ」
「怒った美遊は怖くありませんー」

真顔でそう返せば、いらっとした表情を浮かべる美遊。
怒った美遊はどちらかというと可愛いと思うんですよねー。まあミーからすればどの美遊も可愛いんですけどー。

美遊は小さく溜息を吐いてから、すっくとベンチから立ち上がった。
そして、ミーに身体をまっすぐ向ける。

「フラン、目閉じて」
「おでこに肉でも書くんですかー」
「フランになら蛙って書くわ」
「やめてくださいー」

蛙って。

言いながら、おとなしく目を閉じた。
美遊はどこか警戒心を削がれる何かがあると思う。だってこのミーが、他人を前に身体の力を抜いて、目を閉じている。

数秒間、美遊が戸惑うような雰囲気を感じていたら、不意に唇に温かくてやわらかいものを感じた。
本当にびっくりして、思わず目を開く。

「うわわわ、目閉じててって言ったじゃん!」
「美遊、今…ミーに」
「ー…、」
「…美遊ーっ!」
「うひゃあ!?」

思いっきり美遊を引き寄せて、ぎゅうぅと抱き締めた。
痛い痛いと言いながらも、美遊も笑っている。
ちゅっと美遊の唇に軽いキスを落として、もう一度強く抱き締めた。

「痛いってばフラン…!」
「美遊が悪いんですよー、あんな可愛いことするから」
「……」

はあ、と美遊はまた溜息をひとつ。
少ししてやっとミーが美遊から身体を離せば、美遊は立ち上がりふわっとやわらかく微笑って、ミーに手をさしのべた。

「帰ろう、フラン」

外もいいけど、やっぱりフランと過ごしたあの部屋が一番落ち着くよ。
優しく笑う美遊は、きっとミーがずっと悩んでいたのに気付いてたんだと思う。でも、何も言わなかった。

「そうですねー」

美遊の手を取って、ミーも立ち上がる。
ヴァリアー邸の、ミー達の部屋に向かって、2人でゆっくりと歩いた。


美遊に出会えて、美遊を好きになって、良かったと思った。


 (永遠に手に入らないと思っていた"幸せ"を感じた)


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