でかける   



「おおお…これがイタリア」

あたしはたくさんの人で賑わう街を見て、そう呟いた。
隣でフランが、そんなあたしを眺めながら小さく笑っている。
繋がれた、手が嬉しい。

と、何故あたし達がイタリアのとある街にいるのかというと、事の発端は勿論フランなのである。


朝、目を覚ましたばかりのあたしの手を、思い切り引っ張ったフラン。
そんなフランは既に私服を着ていて、それもいつもより少しおしゃれに見えて、どうしたんだ?って考えながらフランに手を引かれ廊下を進んでいく。
たどり着いたのは、もう何度も訪れたリア姉さんの部屋で。

「いらっしゃぁーい!」
「お、はようございます…?」
「じゃあルッス先輩、お願いしますー」

テンションの高いリア姉さんに、寝癖の付いた髪を手で撫でつけながら頭を下げれば、今度はリア姉さんに手を引かれる。
室内に入って、唖然とした。

部屋一面に広がる、服、服、服。しかもワンピースしかないように見える。
他に、上に羽織るジャケットや、ストール?とか、ブーツとか、小物も沢山。鏡の前にはメイク道具も広がっている。
ぞくりと、嫌な予感が背筋を駆け上った。

「リア姉さん、フラン、これ…は?」
「あら!フランあなたまだ美遊に言ってないの?」
「あれ、ミー言いませんでしたっけー?」
「何も聞いてませんが」
「デー「デートに行くんでしょ!?」何故遮ったし」

イラッとした表情でリア姉さんを見上げるフランになんて気付かずに、あたしはただ「…は?」と呆けた表情を浮かべる。
でーと、でぇと、デート?
デートっていうとあれですよね…あの、恋人同士が2人で一緒に出掛けたり、する、あの。それに行くと?

「誰が」
「ミ「フランと美遊に決まってるじゃなぁい!!」だから何で遮るんですかー」

あたしと、フランが、デート?

数秒間フリーズして、漸く理解した。
そしてもちろん顔に集まる、熱。
この部屋にある服や小物は、全部あたしの為にフランとリア姉さんが用意してくれたものらしい。
この中で、一番あたしが好きだと思うものを着て良いって。

なんだかすごくすごく嬉しくて、あたしは思わずリア姉さんに抱き付いた。

「ありがとうございます、リア姉さん!」
「いいのよ!」
「ちょ、美遊ー抱き付く相手間違ってますよー?何だ今日のこの扱い」
「ごめんごめん、フランもありがとう」

リア姉さんから離れ、フランに身体をまっすぐ向ける。
本当に嬉しくて、幸せで、へらりと笑みを浮かべた。

「すごく、嬉しい」
「ー…っ!、は、早く着替えて、きてくださいー。時間無くなっちゃいます、からー」
「うん!リア姉さん、お願いします」

そしてあたしは薄水色のワンピースを選び、リア姉さんにメイクして貰ったりしてから、フランと2人、街へと向かったのだった。


――…


…内心、今フランがヴァリアーにいるってことは、少なくともマーモンが死んでしまった後ってことで、ミルフィオーレがなんやかんやで街とかを歩くのは危ないんじゃないか…って、不安だった。
でも、一緒にいるのはフラン。それだけで最大の安心要素だ。
それに、本当に危ないのなら出掛けようだなんてしないだろうと思うし。

「でも、本当に綺麗な街だねぇ…」
「ここら辺は比較的平和ですからねー、店もたくさんありますよー」
「そうなんだ…あ、あの店可愛い」

不意に目に入ったのは、アンティーク調の雑貨屋らしき店。
他にもきょろきょろと街を見回すあたしを、フランはやっぱり楽しそうに見ていた。
その視線をくすぐったく感じながらも、はしゃぐ気持ちは止められない。

だって、外に出たの、もうどれだけぶりだろう。こっちに来て、初めてじゃない?
この前フランに無理矢理任務へ連れていかれたのは、置いといて。

「美遊、楽しいですかー?」
「最高!」
「それは良かったですー」
「…フランは?楽しく…ない?」

一瞬、ほんの一瞬だけ切なげな表情をした、フランの手を握る力を、きゅっと少しだけ強めた。
その表情はすぐに消えてしまって、フランにしては珍しい、柔らかな笑みに変わったのだけど。
違和感を感じて、あたしは不安げにフランを見上げた。

フランは、少し目を丸くして、そしてまたふんわりとした笑みを浮かべた。

「美遊が楽しいなら、ミーも楽しいですよー」


 (美遊には太陽の光が似合っていた)


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