つげる 昨日晩フランは任務に出掛けて、もうすぐ帰ってくるだろうなーと思ってあたしは部屋のソファに座りながらそわそわしていた。 時が流れるのは早いもんだと思う。 このリングがきっかけでこの世界に来て、フランに会って、ペットにされて…フランに好きって言われて、恥ずかしいけど、キスもした。 手の届かない存在だったフランに触れられて、話が出来る。それだけですごく嬉しいし、幸せ。 帰りたくない。ずっとフランの傍にいたい。 「…ホントに溺れ死にそう」 フランに、なんて。 いつの間にか眠ってしまっていたらしく、ぱちりと目を覚ました。 1時間ぐらい…か。 フランはまだ帰ってこないのかなー…。 部屋の扉をほんの少し開けて、廊下の先をきょろきょろと見てみる。 左側に目をやって、そこにカエル頭を見つけた。 なんだ、フラン帰って来てるんじゃん。 でも何で部屋に入ってこないんだろう…? そう思って目を凝らしてみる、と、フランの前にもう一人、誰かがいることに気付いた。 金髪だし、ベル…かな?いや、にしては髪が長いような…。 「、あ…」 そこで気付く。 廊下でフランと話をしているのは、ヴァリアーの隊服を着た、金髪の女の人だ、って。 多分、任務の話をしているんだろう。 でもあたしには分かってしまった。女の勘…みたいな。 フランと話してる女の人は、確実にフランのことが好き、だと思う。 よく見えないけど、こう…雰囲気みたいな、仕草というか、に、好きですーってオーラを乗っけてるような…そんな感じ。 そう思った瞬間、どくん、って心臓から血が逆流するような感覚に襲われた。 怒りとも哀しみともつかない、よく分からない感情が迫り上がってくる。 彼女と話をしているフランは、どんな顔をしてる? 「あー…うわ、」 あたし何嫉妬してんだ。 心の中で自嘲の笑みを浮かべながらも、動き出した身体を止めることは出来なかった。 ほとんど無意識に近い。 あたしは反射的に部屋から飛び出すと、小走りでフランの元まで向かっていて。 「フ…フラン!」 「わっ」 フランの背中に思いっきり抱き付いて、腰に回した腕にぎゅうと力を込めていた。 どうしたんですかー、って珍しく本当に驚いているっぽいフランの顔をちらりと見上げてから、女の人に視線を向ける。 目の前にいる女の人は、きょとんとした後に、にっこりと綺麗な笑みを浮かべた。 綺麗だけど、でも、明らかに敵意の籠もった笑み。 「あなたが…フラン様の、ペットの…?」 「っ、」 そう…だ。 どんなにフランがあたしのことを好き、だとか言ってくれても…態度で示してくれても、結局まだ、フランにとってあたしは、ペット…で、…。 何やってんだろ、あたし…。 俯いたまま、あたしはそっとフランから手を離した。 「ごめん…なさい、邪魔して…」 「いいのよ、気にしないで」 スタイルも良くて、綺麗な、こんな人がきっとフランには似合うんだろうな。 あたしは何もかも普通で、たまたまちょっとフランに気に入って貰えただけ…で。 やばい、泣きそう。 涙が零れそうになるのを、唇を噛んでぐっと我慢しながら、2人に背を向けた。 けれど、部屋に戻ろうとした瞬間、くんっと右腕をひっばられる。そのまま後ろに倒れそうになって、衝撃が来る前に目を瞑った。…と、ぽすん、と何か温かいものが背中にぶつかり、首に腕を回される。 視界に入る、フランの隊服、フランの…手。 じわりと視界が歪んだ。 「美遊はミーの、…ミーの大切で大好きな、恋人ですー。人の恋人勝手に傷付けないでもらえますかー?」 「え…」 「ーっ!で、でもフラン様…っ」 「消えろって言ってんだよタコ女ー、3秒以内に消えないと殺す」 急に刺すような雰囲気に変わったフラン、の殺気に、向けられているわけじゃないあたしまで背筋がぞくっと震えた。 女の人はひっ、と息を呑んで、走り去っていった。 少なからずあの人にはムカッとしたとは言え、なんとなく申し訳なくなる。とりあえずごめんなさい。 フランはといえば、あたしを後ろから抱き締めたままで、姿が見えない分なんか余計に恥ずかしい。 でも、フランが…あ、あたしのこと、を、恋人だ…って、言ってくれた。 そんなことがこれ以上なく嬉しくて、滲んだ涙がぽろぽろ零れる。 涙はあたしの頬を伝って、フランの隊服の袖に染みていった。 「…美遊、あの、嫌…でしたかー…?」 「うー…、何、が」 「その…ミーの恋人ですーって、言ったこと」 らしくもなく不安げなフランの言葉に、ふるふると首を左右に振った。 「嫌なわけ、ない…。すごく、嬉しいよ」 「…まあ嫌とか言ったら…」 「あ、その先は聞かないから」 「ちっ。…でも美遊が来てくれて助かりましたよー。あの女しつこいし香水臭いし困ってたんでー」 舌打ちしたよこいつ、って思いながらフランの言葉に少しポカンとする。 だってあの人…まあキャラはいかにもーって感じだったけど、見た目は綺麗だったのに。 そう言ったら、フランが小馬鹿にしたような目であたしを見てきた。 「眼科に行った方が良いんじゃないんですかー」 「失礼だな」 「あんな女より、ミーには美遊の方がよっぽど可愛く見えますけどねー」 「な、…っ」 顔を赤くするあたしをニヤニヤ笑いで見下ろすフラン。めちゃくちゃ顔熱いんですけど…! あたしは慌ててフランの腕から抜け出して、フランがあー、って言ってる間に部屋に入って扉を勢いよく閉めた。ついでに鍵も。 外から、ちょ、美遊開けてくださいよーって声が聞こえてくる。 顔の熱が引くまでちょっと待っていただけますかね! (おまえが眼科に行け…!) ← → 戻 |