もどる ソファーに座るフランの、太股の上に座らされた。 恥ずかしいし重かったら悪いしであたしの頭はショート寸前なんだけど、フランがあまりにも嬉しそうな顔をしているから断れなくて、気分的に頭から湯気を出しながら大人しく座っている。 もしかしたらホントに湯気出てるかも、なんて馬鹿なことを考えた。 フランの手はあたしのお腹の辺りに回されて、ぎゅっと抱き締められている。 「お、重く…ない?」 「重いですー、ダイエットした方が良いんじゃないですかー?」 「…え、ごっごめ、おりるから手離してっ」 「冗談に決まってるでしょー」 「いや、でも…」 「美遊はおとなしく座ってれば良いんですよー」 有無を言わせないフランの雰囲気に、あたしはこくりと小さく頷いて、そっとフランにもたれた。 …大きい。 今のフランはあたしとそんなに身長差ないのに、っていっても差は一応あるけど…、でも、10年後のフランは頭1つ分くらいの差がある。 恋人の理想の身長差は頭1つ分、って誰か言ってたなー、なんて思って顔が一気に熱くなった。 フランの手が、くしゃりとあたしの頭を撫でる。 なんか大人の余裕を感じるよ…! 「…フラン、背伸びたね」 「そうですねー」 「髪も、伸びた」 今のフランより、少し長い髪。 フランを見上げながら一束手にとって、へにゃりと笑えば、フランも切なそうな表情で笑った。 「美遊」 「ん?」 ひょいっとフランに持ち上げられて、座る向きを変えられる。 その細腕のどこにそんな力が…。 フランと向かい合うように座らされたあたしを、ぎゅうっと少し強い力でフランが抱き締めた。 どく、どく、フランの心臓の音が聞こえてくる。 「美遊がどこに行っても、ミーは美遊だけを愛してますー」 「…、うん」 「本当は、監禁してでもミーの傍にいて貰いたいんですけどー」 くい、とこの世界に来てすぐくらいに、フランに付けられた黒のチョーカー、もとい首輪を、フランが指に引っかけて呟く。 「監禁て…」 「結構本気ですよー」 「…そんなことしなくても、あたしだってずっとフランといたいし、離れたくないよ」 じわりと目に涙が溜まる。 なんで、あたしは元の世界に戻っちゃったの? 戻らなきゃいけないなら、なんであたしはフランのいるこの世界に来たの? 神様、あなたはいじわるだ。 「あたしだって、フランのこと大好きだもん…っ!」 零れた涙が、フランの服に染みていった。 でも、泣いてる場合じゃないと思って、ごしごしと服の袖で涙を拭いフランを見上げる。 と、フランは顔を真っ赤にして顔を逸らしていた。 10年経って表情豊かになったな、なんてどこか冷静に思う。 耳まで真っ赤なフランなんて、珍しすぎるんじゃないかな。 「美遊の卑怯者ー」 「なっ、何が!」 「不意打ちですよもー」 むに、ってフランにほっぺを引っ張られた。 今あたしすごい変顔な気がする…ちょ、やめてフラン離して! やっと離してくれたフランを軽く睨み上げれば、肩を震わせて笑われた。 …やっぱり、10年経って表情豊かになった。 だってフランの笑い方って、いつも何かを企んでるみたいな腹黒い笑い方ばかりだったし。 でも、この人笑いすぎて目に涙浮かんでるんですけど。笑いすぎじゃね?失礼じゃね? 「…そろそろ、帰る時間ですねー」 「、わかるの?」 「10年前に堕王子の所為で美遊がいなくなった日があったんでー」 「なるほど…」 「取り敢えず美遊は戻ったら堕王子を一発殴っといてくださいねー」 「いや、無理でしょ」 フランの手がするりとあたしの頬を撫でる。 その手つきがすごく優しくて、あたしはフランの服の裾をきゅ、と握りしめた。 「美遊、愛してますー。ずっと、永遠に」 「っ…、」 そう言って、ふわりとフランは笑った。 今まで見たことがないくらい、優しくて、暖かい笑顔。 ちゅ、と優しく落とされたキスとほぼ同時に、何かに強く引っ張られる感覚がした。 もう、帰る時間。 「…、っあたし、探すから!絶対、フランと離れない方法!帰らないですむ方法、探して、フランとずっと一緒にいる未来に、変えるから!」 さっき拭ったはずの涙が、また溢れてきた。 「…期待はせずに、待ってますー」 「!…そこは、期待しようよ」 一度した会話、だね。 あたしがフランのほっぺに軽いキスをした、その瞬間。 ぼふんっ! 最初と同じ音、包まれた桃色の煙と共に、あたしの視界から10年後のフランは消えた。 ぎゅっと自分の服を握りしめて、あたしは涙を拭った。 戻った世界で、あたしの大好きなフランが待っているから。 (愛しい君とずっと一緒にいられる未来を、願って) ← → 戻 |