いれかわる   



ぼふん!

フランと2人でぼんやりしている時に、いきなり部屋にやって来たベルの手にはバズーカが握られていて。
あたしとフランが反応するより一瞬早く、それはあたしに向かって発射された。
心の中でベルてめぇ!とか思いながらも、ピンクの煙にあたしの視界は包まれて、何も見えなくなる。

「美遊っ!」

フランがあたしを呼ぶ声が、聞こえた。


――…


「…いてっ」

ぼす、とあたしが落ちたところは、今さっきまでいたところと大差ない、殺風景な部屋だった。ちなみにソファーの上。
キョロキョロと周りを見渡す。
誰も…いないや。どこなんだろうここ…。

取り敢えず座ったままじゃ何も変わらないし、と思って立ち上がる。
その瞬間、部屋の出入り口らしい扉がガチャリと開いた。


出て来たのは…カエル。

「…え、」
「フ、ラン…?」

なんだろうこのデジャブ。
あたしが初めてこの世界に来たときもこんな感じだったなあ…。
でも、あたしの目前で固まっているフランは、さっきまで一緒にいたフランより身長が伸びていて、身体も少し男らしくなっていた。
てか何歳なんだろうフランって…謎。

フランは手に持っていた書類をばさばさ、と落とすと、すごいスピードであたしの目の前に立って、確認するようにあたしの顔を覗き込んできた。
その顔の、あまりの必死さに焦る。

「ほん、とに、本物…の、美遊、ですかー…?」
「あ、えっと、うん、美遊です」
「美遊…っ!」
「ムギャッ」

ついマーモンみたいな声を上げてしまった。
それほどフランがあたしを抱き締める力は強くて、ちょ、背骨が今ミシッて言った…!
あたしはフランの背中をばしばし叩いて、苦しいってことを必死に伝えようとする。
けど、フランの力は弱まるどころか強くなるばかりで、その時、異変に気がついた。

「フラン…泣いて、る?」
「なっ、泣いてなんかいませんよー」
「いやでも、右肩が湿ってるんですが」
「…、鼻水ですー」
「汚い!ちょ、離れて離れて汚い」
「きたな…やっぱ涙ですー」
「おおう、良かった…」
「そんな本気で安心しなくてもー」

あたしの肩から顔を離したフランの瞳はやっぱり潤んでいた。
ずずーって鼻を啜って、あたしの頭をそっと撫でてくる。
その手の大きさも今とは違って、何でだろう、切なくなった。

「美遊、キスしても良いですかー?」
「え、えぇえ」
「ダメー?」

こてん、と小首を傾げてくるフランは、確かに男らしくなったけど可愛さは全く失われてなくて、なんか、心臓を打ち抜かれた気分だ!可愛いいいなんでこんな可愛いのフラン…!
俯きながら、小さく頷けば、フランの右手があたしのほっぺに添えられた。
う、わ、すごく、恥ずかしい…っ。

ちゅ、と触れた唇は熱くて、一気にあたしの顔は真っ赤に染まった。
角度を変えながら口付けられて、顔の熱はあがるばかり。
するりと入ってきた舌を、拒む事なんて出来なかった。

「美遊っ…」
「フ、ラ…っン、」

何秒経ったのか、もしかしたら何分、なのかもしれないけど。
はあ、と息をついて口を離せば、唾液がつぅ…とあたしの顎を伝っていった。
やばい、腰に力入んない…。
フランがぺろりとそれを舐め取って、ふんわりと笑みを浮かべた。
わ…あ、今、なんか、頭の中でばふ!って何か爆発した、どうしようフランが格好良すぎる…!

「10年前の、美遊…」
「…そうだ、フラン、今のあたしは元気…?」
「、っ…」

息を詰まらせて、もう一度あたしの頭を撫でてくるフラン。
それだけで、あたしにはなんとなく、全部分かってしまった。

「そか…もう、此処には…いない、んだね」
「美遊ー…」
「だからフランは、泣いてくれたんだ」
「…、」

ぎゅ、とあたしからフランに抱き付いた。
顔を見られないように。あたしの哀しみを悟られないように。

そういえば5分経ったと思うのに、戻らないな…故障か、それとも10年バズーカの時間が延びたのかな。

「美遊、もう一度キスして、いいですかー?」
「…ん」

何かを埋めるように、フランは何も言わないで、ただずっと、あたしにキスをし続けた。
あたたかくて、切ないキス。
フランの温もりが、どうしようもなく切なくて、苦しかった。


 (恐れていた夢が、現実になっていた)


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